投稿日: Jun 02, 2011 10:27:54 PM
この1年で日本はどれだけ前進したかと思う方へ
電子書籍をTVが取り上げている見て感じるのは、一般の人に関したIT系ネタが不足しているのかなあ、ということだ。1980年代のOA化から始まって、デジタル革命はいつも社会に話題を提供していたが、今日ではデジタルもネットも当たり前になりすぎて、だからといって身の回りに革命はあったようには思えないので、マスコミはこれから革命が起こりそうなネタを探しているのだろう。デジタルで革命があったとするとアメリカのIT企業が他の国の国内産業を侵食したことではないか。日本における身の回りのデジタルやネットの浸透は実際にアメリカの国際戦略の結果である。しかしそういった不吉な話はTVには向かないらしい。マスコミにとっては漠然とした良い未来を感じさせる革命ネタとして、今の電子書籍があるように思える。
2010年は電子書籍元年といわれた割には、AmazonのKindleでも、AppleのiBookstoreでも、ネットの電子書籍流通は日本に入り込まなかったので、大きな話題はなかった。これは良かったことか悪かったのかわからない。もし既存の書籍流通以外にネットで強力な電子書籍流通が生まれていれば、埋もれていたコンテンツが一杯世に出たかもしれないし、それが話題を撒いた可能性はある。コミケのようなすでにコンテンツが動いている分野が電子書籍流通に乗ったならば、半年の間にマニアには十分広まっただろう。またモシドラのような既存の作家とはちょっと違う人にとっては出番が多くなるのが、出版社を介さずに作品を自由に発表できるネット上の大規模な流通機構であろう。
つまり既存の出版のプロ以外は黒船でも何でも早く流通機構が出来て欲しいだろう。Kindleの自費出版の多くは500部~2000部のようなリストを見たことがあるが、一般大衆向けのヒット狙いでないニッチな出版としては、1000部出て何十万円の収入くらいならなんとかペイすることになろう。しかし昨年話題なった電子書籍元年はそういったロングテールの話ではなく、出版社の起死回生になるのかというトーンがあったが、おそらく紙の本で売れないで電子書籍なら売れるなんてことは有り得ないので、黒船であろうと自前流通であろうとネットでの流通が出版界を救うことにはならないだろう。
むしろ出版社という組織と擦れてしまった作家や編集者がスピンアウトして自分たちで出版することを電子書籍は促進するかもしれない。何も出版社にタテつくことに意味があるのではないが、作者や読者の視点で編集の仕事を貫きたい編集者やプロデューサにとっては、出版社に屈することなく仕事ができるかもしれないのが電子書籍となると、そこから良いものが生まれていくる可能性は高い。そうした出版社ヌキでの出版は、原稿料・印税や2次利用のライセンスなども、従来の紙の出版とは異なるものが必要になるだろう。電子書籍では作品を別のフォーマットでの派生形態で出しなおすことは多くなるだろうし、まずはネットで作品をみつけてもらうための工夫として、部分的に見せることが必須であるからだ。
黒船に対抗する日本固有の電子書籍流通で最も欠けているのが、読者のネット上での振る舞いを踏まえていない、出版側のワンサイドのビジネスモデルである。一方で黒船はすでに電子読書環境を改善するサイクルに入っているというのに。