投稿日: Aug 15, 2010 11:8:0 PM
電子書籍の乱立が心配な方へ
英語ではeBook、日本では電子書籍、これらは同じものとはいいがたいところがある。eBookは10年前からの言い方で、そこに含まれるものは当初はPDFが主流だったが、それは何から何まであった。要するに専門書の文字デジタルコンテンツを専用の読書端末とか読書ビューアで見るものであった。文字を液晶で見やすくするためにクリアタイプなどが考えられた頃である。それらは一旦下火になったが、日本ではケータイコミック、ケータイ小説が普及し、その先にコミック用の電子書籍端末も開発がされるようになった。一見すると端末自体はeBookでも電子書籍でも似ているが、利用分野は大きく異なっていることがわかる。eBookの方が紙にはない機能性を模索していた傾向がある。
Webでもケータイでも元々テキストデータを読むことはできるが、買ってもらうとなると商品価値として趣向の問題が入ってくる。つまり単なるテキストデータでも読みやすくするとか、読む抵抗感を緩和させるために、紙の本のような面影にする考えが電子書籍には強く感じられる。専門書はユニークな中身なら見栄えは関係なく有料化できるという考えがeBookでは感じられるが、もっと読者のフィーリングに寄った様式化を重視してきたのが電子書籍といえ、言い換えると書籍紙面シミュレータというソフトである。当然eBookもその後の進化でそのような方向も取り入れてきており、最終的には区別はなくなるだろう。
そもそも新しく生まれるコンテンツにとっては紙のような紙面は必須ではなく、一方で読者のアタマに紙の本が想起される作品や作家が電子書籍に向かっているように思える。それでいくと過去の紙の本は電子書籍にするのが自然であり、長い目で見ると電子書籍とは本のイメージにアーカイブするものといえる。しかしeBook・電子書籍が紙の本と異なるのはネットとつながった情報処理で読書体験の共有ができるとか、外部コンテンツとのリンク機能などが持てることなので、紙の本の一部はこういった再編集再加工をして息を吹き返すかもしれない。その手間をかけるに値すると思われるコンテンツが少ないと電子書籍の多数は本のような様式化重視の静的なアーカイブになって、一方新機能を前提に出版企画するのはeBook的な幅の広い考えのチャレンジという分化もありえる。
紙に対してデジタルの方がメディアの様式のライフサイクルの入れ替わりが激しいので、eBookの機能性向上はいろんなチャレンジが進み、ソーシャルやネットの世界と絡んだダイナミックな読書が実現していくのだろうが、そこからも静的なアーカイブは参照されるだろう。eBook・電子書籍という名称よりは、『アーカイブ』と『動的読書を企画する』という2つの事柄でデジタル読書を考えていくのがいいのではないか。そしてKindleやEPUBとかHTML5などの世界は『動的読書』のプラットフォームをも目指すので、それらと連携をとるようにアーカイブを作ってロングテールのビジネスを狙うことも可能になる。ただし日本独自フォーマットを採用すると、アーカイブといっても孤立したものになるおそれがある。