投稿日: Feb 03, 2016 12:39:15 AM
昨年話題になった本に、「りすの書房」の「亞書」という、無意味にギリシャ文字を並べて1冊68000円の値段をつけた高額本78巻があり、それを国会図書館が42冊も金を払って購入していたことがわかった。国会図書館は定価の半額と送料を払う決まりがあり、136万円ほど支払ったのだが、これが国会図書館に納本するに値するものかどうかが問われて、このたび返本・返金するようになったそうである。
この本の著者アレクサンドル・ミャスコフスキーは架空の人物で、作者は「入水そと」という人らしい。「自分が即興的にパソコンでギリシャ文字を打ったもので、意味はない。本そのものが立体作品としての美術品とか工芸品。長年温めてきた構想だった」と説明しているという。入力だけでなく自分で印刷から製本までしていて、1冊作るのに3万円以上かかっていると主張している。自分も家でプリントから製本までしたことがあるが、実際一人でシコシコ作っていると1日仕事かもしれない。国会図書館に納本されて半額払ってもらえればトントンということだろうか。
この本はAmazonでも売っていることからサギのようにいわれていているが、立件は難しいかもしれない。まず実際に儲かったとは思えないことである。しかし芸術品とまでは言い難く、その中間のようなものが世の中にはある。とある新興宗教の教祖様は自分の描いた油絵を1000万円単位で信者に売っていたが、それは詐欺か芸術か白黒つけるのは難しい。日本の新興宗教では安直にできる「書」を売りつけることも多い。
「入水そと」が「亞書」の着想を得たのは高額の楽譜らしく、以下のような記述がblogにあった。
『本日演奏される『モテトゥス第1番〈アヴェ・マリア〉』の現行の出版譜は三種類ある。
ファクシミリ版は、たった28ページで八千円という、なかば詐欺まがいの代物で、
公立図書館の馬鹿どもをだまくらかすために出した版であるから、
個人が手を出すべきものではない。演奏用のA4判も、たった8ページで二千円もする。
そんなわけで、どうしても楽譜が欲しい物好きがいたら、手のひらサイズのポケットスコアがおすすめである。
1,030円である。消費税が上がる前に、買うべきである。いまだに一冊も売れていない。不良在庫の山である。』
図書館の世界はファクシミリ版というレプリカというか希少資料のコピー商品を高額で買い取る習わしがあって、そこにつけこまれているのであるし、現にそのようなことを生業にしている出版社もある。だいたいデジタルアーカイブに反対するのはそういった業者なのだ。
「亞書」も電子書籍だったら68000円というような定価はつけられないだろう。きちんと製本されていることでありがたみを感じるように、文化や芸術はモノとして偶像化されやすいものであるのは、評価がすぐにはできないからだ。時代を経て評価されものは安い文庫本でも価値あることが認められるということだ。
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