投稿日: Apr 27, 2013 2:32:58 AM
ロックは社会現象かと思う方へ
私はアメリカの「黒人音楽」の一種を50年ほど聞いていて、30年間ほどレコードを集め回っていたことがあり、その後の10年はそれらのデジタル化やリマスター作業に取り組んでいる。しかし「黒人音楽」とは何かはなかなか説明しにくいものだと思う。特にアメリカの南部の音楽は白人と黒人が入り混じっている部分があって、アメリカの地域によって黒人と白人の距離も随分と違う。つまり黒人音楽を「肌の黒い人の音楽」と定義してしまうと、肌の色が音楽評価にも反映されて、「黒くないから本物ではない」というような論評がされたこともあった。では一体黒人音楽を聴くとは何を聴いていることになるのだろう?
Jazzのように古くから白人に認められた黒人の音楽というのは音楽様式化することによって隔離された社会から外へ伝播できるようになったものである。下図は記事『文化は業者が担うものではない』で使ったものだが、時の流れが上に向かっていて、上に行くほど様式化が進み、従って世界中に伝播して行った。図のjazzの右にあるchittlinsは白人若者のガレージバンドのレパートリーになったようなロックの元祖(R&BやBlues)である。例えばBeatlesとRollingStonesの両方がカバーしたMoneyなどがそれにあたる。では本家のBarrettStrongのMoneyとBeatlesとRollingStonesのカバーは音楽的にどこが違うのか?RollingStonesの方が黒っぽいとか言われたものだ。
日本の島歌であっても黒人が歌うとSoulに聞こえる。これは音楽様式の問題ではなく、西洋音楽とは異なる音楽観があるからだと考えられる。白人の大人の世界では煙たがられる「黒人音楽」というものを若者がわざわざ取り込んで、そのchittlins的音楽様式をまとって白人のロックは世界に広がり、今日も受け継がれている。ロックの音楽様式は楽器編成とか習い事、クラブ活動、イベント、などリアル社会でも定着してきた。これはロックがレコードのような商品生産のための音楽ではなく、何らか日常生活と分かち難い面を持つからだろう。
記事『偽装する文化(1)』では、西洋のフォークロアはキリスト教の布教に乗って世界に広がったことを書いたが、「黒人音楽」をまとって侵入してきた文化とは何だろうか? JazzからSoulからロックから、BluesやGospelまで、それらで伝えられたものは楽譜にはない裏拍でリズムをとるビート・グルーブや絶叫、息づかいなど、プライベートなエモーションをサウンド化して露呈することだった。
つまりこういった音楽様式に偽装することで、個人が強く共感しあう非言語コミュニケーション文化が、非黒人社会にもひとつ追加されたのだといえる。