投稿日: Sep 04, 2011 10:51:52 PM
電子書籍への期待感が高まらないと思う方へ
日本書籍出版協会が8月末に発表した出版物の複製に関する実態調査というのがあり、出版物のコピー、スキャン、インターネット配信について個人にアンケートしていて、結果はものすごく「健全」な感じがした。この調査の趣旨は、著作権保護の意識が薄れて危機的になっているのではないか、という危惧からきているのではないかと察するのだが、実態はごく一部の極端な違反が針小棒大に取り上げられてきていて、こういったことがネットやデジタルでのコンテンツビジネスを進めないための言い訳になっているのではないか、と思う。
だいたい出版物のコピー、スキャン、インターネット配信を並べて論ずるのも、それほど意味はない。出版物のどこかのページをコピーするのは生活やビジネスの一部になっているものなので、今更調べる必要もない。調査では地図をコピーすることが多いように書かれているが、地図帳を持って歩くことはしないのだから当然である。学参などの問題も毎回冊子単位で受け渡しなどするはずがない。つまり何を問題にしているのかわからない。スキャンについては調査対象の3分の2が自分で買ったものをそうしたことがあって、「公開・アップロードしたことがある」経験者は6.2%、つまり10分の1しかなく、それも「勤務先の上司・同僚・部下」57.6%、「友人・知人」40.5%など顔見知りの範囲で、不特定配信は全体の一桁の下%であると思える。
インターネットにおけるファイルシェアのような無許諾配信の中に日本の出版物がどれくらいあるかも調べていて、多いのはやはりコミックや小説で、コミックは10サイトに8600たいとるほどがあった。中国関連のサイトでepubになっているものもある。P2Pのファイル交換は調べようがないのかもしれないが、発見数は極めて少ない。そもそも不特定配信は全体のfew%なんだから、そこをさらに詳しく調べても何か重要な傾向が発見されるとか思えない。
むしろ問題は別のところにある。電子書籍のダウンロード購入経験者は「2010年以降に電子書籍をダウンロード購入した
ことがある」が11.8%、「購入意向者」”は24.0% 「非意向者」は42.1%であって、ダウンロード意向は倍増はしているものの、これだけPCやモバイルが盛んに使われる時代にあって、電子書籍というメディアがそれほど人々の心をワクワクさせていない点である。中国のように今まで出版流通が発達していなかったところにとっては、電子書籍の登場は大きな意味を持つのだろう。何らかのブレークスルーがもたらされる電子出版でないと広がるはずはない。日本の出版社は書籍流通への遠慮から新刊人気タイトルを電子書籍にまわさないとか、タイムラグを設けているという話もあるが、それ以前にマーケティングに根本的な間違いがあることを出版界は気づいていない。
出版界が問題視している、過去に紙で出版されたものだけがマーケティングの対象であるかのような見方がおかしいのである。PCやモバイルというデバイスが普及した中で、人々がそれで何をどう見たいのか、という今後どんなコンテンツを作っていくべきかのマーケティングが欠けている。上記のような視点の調査をおそらく20年間くらいは続けていると思うが、その20年間の委員会なり調査の浪費に気づくべきだろう。別に電子出版などしなくても、紙の出版ですばらしい会社を作る努力をすればよいのだから。