投稿日: Jun 27, 2010 10:24:28 PM
デジタルビジネスは消耗戦ではないかと思う方へ
6月25日(金)Kixプレセミナー2 「iPad、Kindle、EPUB…電子出版にまつわるフォーマット議論の先に何があるか」 #kix0625 全般についてはサービス化するコンテンツビジネス でざっと触れたが、アスキー総合研究所所長遠藤諭氏は今後の見通しについてと、番外でフォーマットに関する指摘をされた。AppleのiPhoneはMacユーザ層以外を主に売れていて、PCに馴染んでいない20代のポジティブ層やPCユーザからの移行というのがスマートフォンの分野になりつつある。一方iPadは金のあるオヤジが主に買っていてiPhoneとの重なりが少ない。iPadの用途はPCと大差ないので、iPadからパソコン利用に移行する予想もしている。iPhoneもiPadもPCに比べて運用の煩雑さがなく、これはクラウドサービスの進展による。それらを全部合わせてクラウドのインパクトは、従来のパソコン利用者に加えて、今まで欠けていた若年層、高齢者層も含めて、デジタルは全世代に定着しようとしていることだと言った。
こういったことすべてネットのトレンドに中にあるものだが、Googleのエリック・シュミットの弁を借りて、誰もネットのトレンドに逆らって成功したヤツはいないと言った。しかしトレンドに流されているだけでは浮上できないもので、Appleのようにその中で独自の具体的なアクションを起こしたものが浮上する。競争分野は結局は日常のデジタル・ネットでのビジネス・生活に向けて、どのような独自サービスが開発できるかにかかっている。Appleは何かと話題の多いところだが、それを傍観者として眺めるだけでなく、むしろ自分の競合者として考えてビジネスを考えるくらいのことが必要だろう。アメリカのベンチャーの取り組みテーマを見ていると、Appleにできないことというのがひとつの狙い目としてあるようで、そこにAndroidへの着目が高まっている理由がある。iPhoneとAndroidを天秤に架けるようなバランス感覚も必要だろう。
また電子書籍のフォーマットについては、ゲームのパッケージの互換性が機種間でないように、Kindle、iPadなどデバイスが異なると買った人はそれに縛り付けになるので、いろいろなコンテンツを買い揃えることの障害になること、そのために最初にどのデバイス用のものを買っても、利用に関する権利処理は背後のクラウドで行われて、別のデバイスでも認証を通れば続きが見えるような仮想書籍が実現可能であろうと指摘した。フォーマットを制作側で考えると、ターゲットデバイス用にどう変換するかという課題があるようだが、遠藤諭氏の経験ではデジタルデータの残っていない本の再版の場合に、「自炊」のようにスキャンしてOCRしてもそれほど時間も精度も問題ないので、デジタルデータでのフォーマット統一が実際には重要ではないと語った。
ある意味では「自炊」のパフォーマンスが高いとも解釈できてヤバそうではあるが、フォーマット統一が必要なのはこれから新たに発信される情報であって、変換の時間や手間をかけずに瞬時に他メディアに展開する必要があるからだ。しかしそれはいろんな分野でXMLが活躍しているところで、EPUBのCJK拡張案のような方法で互換性を保ちながら機能を高めていけばよい単純なことである。それとは別に従来の膨大な紙の資産をデジタルデバイスからアクセス可能にする課題があり、もし出版社が十分な処理パワーを持っていないならば、読書会や文学サークルのようなボランティアの「自炊」を買い上げて権利処理する(当然ボランティアの外にはデータを持ち出さない前提で)ような、読者とともに築く電子書籍というのもあり得るだろう。まずはすぐできることから独自の具体的なアクションを推進することが好循環の出発点だろう。