投稿日: Nov 06, 2013 12:50:11 AM
今は断続的移行
商業出版であれ企業内文書であれ学術・教育用途であれ、紙媒体から電子出版への移行は進んではいるものの、ドラスティックな変化というのは多くはない。大学願書が紙でなくなったのは、やっと今回の近大や東洋大くらいである。日本の現状では商業出版のデジタル配信は後発で、カタログやドキュメントが先行はしていて、それらの全体の分布状況を感覚的に表現すると、ロングテールは電子化が確かに多くて、紙媒体は何千以上のところが部数減の状態が続いているようにみえる(下図)。つまり紙媒体の時のロングテールの様を黒線であったとすると、電子化で曲線がオレンジ色のように変化しているとみえる。つまり紙も電子も似た曲線に分布し、そのたわみが電子出版の方がロングテール的なカタチでしばらくは電子化が進んでいくのだろう。
しかし紙の出版はイニシャルコストがある程度かかるために、それをまかなう最低部数を割り込んでしまうと発行されなくなってしまう(下図の黒線)。月刊誌が隔月になり季刊になり、しまいにMookになってしまったものは多くある。かつては10万部でやめてしまうこともあった一般商業誌だが、今は数千部でも出し続けているものがある。しかしさすがに1000部くらいになってしまうと休刊・廃刊になり、Webだけ続けていることがよくある。
シンクタンクや団体が出していたレポートも1000部内外のものが多くて、21世紀に入って相当数がWebでの情報発信に切り替わっていった。上の図でロングテールのところで紙媒体が減って電子出版が増えているようになっているが、個別の媒体では下図のようなスイッチが行われていて、その総体をみると上図になるという意味である。
そしてiPadが登場した2010年からは、こういったWebに移行した元紙メディアが、電子雑誌・電子書籍として蘇ってくるのだろうと考えた人が多くいた。ところが実際には再度タブレット用にWeb媒体を再構築するところはあまりなく、WebあるいはPDFのままでここ何年かが過ぎている。無料配布の場合は経費の追加ができないので再構築ができ難いのと、商業媒体も広告があまりつかない電子出版には気乗りがしないということだろう。
きっとタブレットの形が紙媒体に似ていたので紙媒体からの移行がイメージしやすかっただけで、もともと雑誌は本来持ち運ぶのが目的ではないのだから、タブレットにする意味は新規に考えなければならない。紙で落ち目の中身を画面にしたところで、再び広く受け入れられることにはならない。
タブレットでもスマホでもモバイルでの利用は音楽や動画などエンタメも含めた競争になって、紙の出版をしていたことの優位性はエンタメ分野では発揮し難いだろう。専門情報を持っている場合はメディアの如何に関わらずにビジネスの可能性を探っているが、専門情報はアプリ化という壁が立ちはだかっているし、その先のデータ提供で紙媒体の売上に匹敵するものにはなっていない。