投稿日: May 09, 2012 1:37:14 AM
デジタルはプロデュース力が問われると思う方へ
デジタルメディアにワクワクしてアイディアは沢山出てもなかなかビジネスにつながらないのは、「アイディア・実現方法・ビジネスモデル・運用管理」というのをごちゃ混ぜで議論してまとまらない傾向があることを記事『テレビに攻め上れ』で書いた。出版のような紙メディアもテレビもそれなりの歴史があって、ステークホルダがそれぞれ効率化・最適化をした分業体制の上で仕事が流れるようになっている。しかしデジタルメディアでは新たな技術が次々加わってアイディアはいろいろ浮かんでも、変化の激しい中で一緒に仕事をするパートナーを探すことが辛い。これに耐えて新たなビジネスに挑戦する気力とか粘りが問題になるのである。
多くの出版社にとってeBookはどうしていいかわからないから出版デジタル機構のようなものも作られたのだろう。しかし新しいメディアではビジネスの組み立て自体に創意工夫が必要な段階だからこそプロデュース力が問われるし、その差が出てくることになろう。少なくともeBookの制作依頼が問題になるよりも、それをどう読者に知らしめ、eBookのリピートにつながる読書習慣を作るかがビジネス上は大きな問題で、問い詰めれば企画制作から読者のレスポンスをどう得るかまで総合的に考えることができる自律した出版ビジネスに切り替えらるのかどうかの問題である。
だからメディアプロデュース力があり実績がある出版社にとっては、その実現手段がeBookになってもあまり困ることはなくて、そういうところにとっては流通があまり煩雑にならないことを願うだけだろう。ケータイがキャリアごとにコンテンツを用意しなければならなかったような事態はゴメンこうむりたい。結局フォーマットや流通は世の中のデフォルトにあわせることになろう。アメリカでは遂にAndroidタブレットの過半数をKindleFireが占めるに至った。これはKindleFireが優れているからではなく安くて用が足りるというだけの理由である。デジタルメディアを構成する要素はいっぱいあるのだが、出版をする側で本当に問題にすべきは何なのかという焦点がボヤけがちである。
冒頭の議論がまとまらない点に関しては、出版に比較して日本の電気製品の開発の方がきちっとした組織的なやり方をしていて、出版は個人任せになりガチな点がデジタル時代に向かなくなっているように思える。つまり編集の個々人は何らかのプロデュース能力を持っているとしても、出版社が組織として「アイディア・実現方法・ビジネスモデル・運用」に関する情報の収集整理を自分でするようにはなっておらず、まあ善良であるところのステークホルダに作業もろとも任せすぎていたということになるのだろう。
特にデジタルメディアは印刷コスト負担がないだけに簡単に始められるとともに、ステークホルダに気を使わずに簡単に止めることもできるので、自分でプロデュース力を磨く場としては今まで以上に好都合なのであるから、自律した出版ビジネスを目指すところにとっては伸びる機会になるだろう。