投稿日: Nov 12, 2010 11:28:30 PM
逆効果な提案の存在を不思議に思う方へ
2000年を境とするIT化ネット化の大波に乗り遅れて、今大変なところに来ている業界がある。その筆頭は日本のIT産業であって、一向に衰えを見せないアメリカやアジアの業界にはさまれて明暗がはっきりしてしまった。一般企業のIT化はアメリカをモデルに大きく変化したのにかかわらず、例えば新聞社のように日本のITベンダーに依存していたところは置いてきぼりを食った。こういったことが今日の日本の既存メディア産業の立ち遅れの一因で、出版も、広告も、印刷も前向きになりきれていない。
だからといってSIerがアメリカのメディアビジネスの真似をして日本の会社に提案しても大抵はうまくいっていない。つまりソリューションはテクノロジーからくるのではないので、日本における課題を見据えないと、ボタンの掛け違えのようなことを起こしてしまう。以前の職場でもシステム提案をもってこられると大変フラストレーションが溜まった。デジタルメディアを導入するというのは「販売」「購買」とは異なって、顧客の要望を理解して提案する形でなければ仕事は始まらない。つまりWebであっても単なる見積書ではなく、作ろうとしているメディアはどんな内容をどのような方法で実現すると、どのような効果があるかというイメージを受発注の双方で共有することが必要になる。
そのために提案書を作成しなければならないが、文書を介して意思の疎通をすることは制作作業とは別のマインドやノウハウが必要で、これを軽んじて適当に作業を進めても期待されるようなメディアはできない。つまり事前の理解・確認がなければデジタルメディアの仕事にならないのである。
提案書の書き方についてはいろいろな本も出ていて、デザインとかテクニックは学ぶことは出来るが、見た目が立派な提案書でも現実では望まれない提案や逆効果な提案がまかり通っている。提案書の形式を踏襲しただけではビジネスに役立つものではなく、顧客に読んでもらえるとか、読んだ顧客から質問が出てくるように、顧客目線で組み立て直すべきである。
悪い例
・押し売りはいけないが、引き出しは多い方がよい
デジタルメディアの仕事もWebサイト、ケータイサイト、キャンペーン、カタログなど、ある程度は類型化されているので、いろいろ制作経験のある会社では過去の他顧客向けの提案のコピー&ペーストをすると、簡単に見た目もよいものがすぐに出来上がるが、そういった姿勢でつくられたものは、得てして顧客には他人事に見えて、出来合いにものを押し売りに来たと思われるかもしれない。
ただし事例は多く持っていたほうがよいし、実際にはそれらは資料として活用すべきである。なるべく社内で経験を共有するにしても、結果としての提案書の丸写しは悪い風潮である。
・ひとりよがりで嫌われる
顧客の業種や会社概要を踏まえて提案を作るのが普通であるが、その内容が顧客から見て「どうしてウチがそんなことをしなければならないの…」と思われると逆効果である。提案書を顧客が見たときに、これだけあなたの会社を理解していますよ…ということが伝わるものでないと、その先には進まない。顧客視点で提案しているという姿勢を示す必要がある。
・費用対効果が感じられない
顧客の業務内容を知って提案したものであっても、どこでも出来る内容であれば、顧客はもっと安いところはないのかと別のところにも提案を求めるだろう。つまり提案内容が顧客のビジネスの助けになるような付加価値が感じられないと、その先は値切り対象になるだけである。
顧客視点の提案には、顧客のビジネスが成長・発展する要素を取り入れる必要がある。
つまり提案書が書けていたからと言って仕事が取れるわけでもない。他社の提案書と比較されても、顧客に魅力を感じてもらうものが、その先の商談に進めることになる。JAGATのクロスメディアエキスパートの論述試験は上記のような悪い提案に陥らないために、論理的な考え方をしているかどうかをみるものとして始まった。
たまたま顧客の口から出たことや、こちらが経験したり思いついたような部分的なところから発想したものではなく、得意先のビジネスの全体感を得て、そこにメディアを論理的に位置づけ、また自社のポジショニングも考えた提案をする訓練が大事だ。