投稿日: Oct 15, 2010 10:34:17 PM
本当に日本はeBookの波に乗れるのかと思う方へ
10月15日に「近未来の電子書籍はどうなる」というセミナーを行った。電子書籍云々というセミナーは毎日どこかで行われているだろうが、今どうするこうするという現場的な話は無限にあっても、企業の経営としてこのテーマにどう取り組むかということの足しにはならない。一方でもうすぐKindle日本版は始まろうとしているし、数年以内に読書端末(可能なタブレットも含めて)が今のコンパクトデジカメ程度に普及するであろうことも見えている。そこで数年経つと電子書籍なるものはどのようになっているのかを想像してみようというのがセミナーの主旨であった。http://www.ebook2forum.com/の鎌田博樹氏は、一般に言われている漠然とした電子書籍ゴシップのような話を整理して、出版そのものの不変な部分と、これから出版がどのように変わらざるを得ないかを説明した。今までの出版制作に比べてソーシャルネットワーキングやコミュニケーションデザインまでも含めたビジネスモデルが必要になると言う。
しかし現状はといえば、Kindleのようなオンライン型の読書をするものは日本には(ケータイ対象を除いて)なく、eBook1.0にすら達していない。鎌田氏はプレゼンの最後に2010年から2015年までを3つの時期に分けて、eBookの進展を予測した。最初の2年は今の自炊のビジネス化のような印刷本素材の電子化によりライブラリを増やすとか、新規の出版では印刷/EBook/Webという各出版プラットフォームの統合化をして連動したビジネスにすることであるという。次の中期の2年くらいは、eBookならではの機能の開花や、独自の価格形成や一桁大きいリーチの広がりが期待される。eBookの拡張とともにeBookの多様化も進むだろう。2014-2015の後期には出版といえばeBook中心の流通に移行し、ネットでの直販となり、21世紀型の出版社やサービスが確立するであろう、というシナリオである。
以上をさらに平たく書くと、当面は紙の本の電子化でパラパラめくりができるような仕事があるが、それはそれほどもうかるものではない。それでオワリにしてしまうのではなく、それと平行して中期のeBook開花に向けての開発や試行錯誤が必要である。その中心となるのはコンテンツを核にした電子的な統合モデルを作り出すことだろう。そのために従来の出版モデルには無かった、コンテンツとコミュニケーションとサービスという関係をはっきりさせなければならないという経営課題がある。こういったことの成果が出るのが中期であって、前期はビジネス的にも事業計画面でも序章とか助走期間である。そして中期は従来の紙の出版と違う様相が、メディアそのものにおいても、社会的な広がりにおいても明らかになる。その萌芽というのは今のアメリカの電子書籍・電子雑誌にもみられる。特に今の紙の出版とは広がる勢いが違うものとなるだろう。そして生き残った出版ビジネスが後期には、あるスタイルを見せてくれるだろう。
詳細については鎌田氏のサイトを参考いただければすでに書かれたものはあるし、これからも情報は出てくる。この後の今氏氏のプレゼンを含め、セミナーにも参加いただいた関係者各位の意見も聞きながら、これから数年のシナリオを膨らませ、それと対照させて、どのような能力や技術やコラボレーションがeBookビジネス化に必要なのかを採り上げていきたいと思う。もしそのような前向きの取り組みをせずに、時流に乗ってタナボタ式に電子書籍のビジネスがあると思うなら、過去の電子出版の失敗を繰り返すだろうし、過去の失敗と違って今度は立ち返るべき紙の出版の土台が見つからないかもしれない。最後のチャンスであるかもしれないのだ。