投稿日: Feb 25, 2012 1:31:26 AM
コンテンツ立国は有り得るのかと思う方へ
ムンクの「叫び」が競売に出されるというので、この絵画がいろいろニュースネタになっていて、動画を作ったものを紹介していた。グッズもたくさん作られている。エドヴァルド・ムンク(Edvard Munch)の生没は 1863年12月12日 - 1944年1月23日なので、著作権を保護を死後50年とすると消滅しているし、死後70年とするとまだ消滅していないくらいだ。ここでは保護期間を問題にするのではなく、二次創作という点で考えてみるのが面白いと思う。つまり二次創作をオリジナルと競合するものと考えると権利問題はややこしくなるが、無関係な二次創作も多い。古典などのパブリックドメインの場合は、メディアや表現形態は問わずにいろいろな二次創作があるのは当然で、そういった漠然とした形のものがあるからこそ広く文化として引き継がれるものとなっている。
コミケなどを見ても、商業作品のパロディだけでなくて、漫画・アニメ・ゲームではない大衆音楽・芸能・制服のある専門的職業・ペットをテーマにしたり、コスプレ、フィギュア、アクセサリー、その他グッズなど、単純な模倣ではないカルチャーが出来上がっている。つまりディズニーのキャラをポルノにしたようなものだけを採り上げて二次創作を制限しようというのは現実を見ていないし、過去からの文化の継承・発展というのも理解していないし、今後のコンテンツビジネスの可能性も考えられない態度である。
だから今日の到達点を元に、いままで曖昧にしていた権利関係のいろいろな点を整理しなおす必要があるように思える。ひとつにはクリエイティブコモンズ(CC)のように作者が作品の自由な利用範囲を決めるものがあるが、これはすべて作家任せなので、なかなかコモンなガイドラインのようなものは見えてこない。二次創作を閉じ込めないためには、やっていいことと、やらない方がいいことの共通認識ができあがることが条件だろう。
そのために議論して整備すべき点を考えると、創作性の問題、複製文化の問題、商業的権利の問題などがあるだろう。だいたいこれに相当することは著作権の複製権、翻案権、同一性保持権などで議論されている話ではあるが、コンテンツビジネスの問題をすべて著作権に紐付けて考えることに無理があると思うので、いろんなガイドラインがルール作りに必要だろう。
創作性の問題は、作者の意に沿わない利用をどうするかということで、CCの逆を行って一切パロディは認めないことを最初からはっきりさせてあれば済むことだ。ただしそれはあくまで作者本人が考えることであって、よく場内撮影禁止というのがあるが、ミュージシャン自身は撮影されてもいいと思っていることがあるように、出版社のポリシーとして行うものでは、かえって一切禁止になってしまう。プロの作家でもコミケを認めている人は多くいる。
複製文化の問題は、出版物などは芸術作品と異なって、どこかにオリジナルがあるわけではなく、そもそも印刷物という複製物が流通しているので、それが複製されると元と区別がつかなくなる点である。コピーは不正競争防止法で取り締まれるが類似性の問題は残る。音楽ではカバーソングの方が出来が良いことはざらにあり、クリエータの実力を考えると、必ずしも先に作ったものが独占的に表現するというのはおかしい。音楽と同じように創った権利と実演の権利を分けて、ライセンス料を払って模倣も堂々とできるのがよいであろう。
商業的な問題というのは、商品としての創作には投資がされていて、さらに金をかけてマーケティングしているのに、その知名度にタダ乗りして便乗で儲けようとする人をどうするかということだ。これはCDのレンタル禁止期間のように、オリジナルがビジネスとしてモトをとった後で模倣のライセンスを与えるようにすればいいのではないだろうか。
いくら日本がコンテンツ立国といっても、過去のコンテンツで世界に勝負を挑むのは無理であり、コンテンツを生み出すモトとなる模倣の段階から流動的で柔軟な環境を作り出すことで、世界のクリエータを日本にひきつけようというくらいの国家戦略が欲しいものだ。