投稿日: Jun 07, 2012 12:37:13 AM
閉塞は必ず打ち破れると思う方へ
昔は時刻表をめくって移動の予定をたてていたのが、今ではネットの路線探索によって、紙では到底できないサービスを得られるようになった。また地図を購入してルートを考えていたのはGoogleMapなどでどこまでも一続きにスクロールできて、StreetViewもあるとか、やはりとんでもないサービスが得られるようになった。時刻表も地図も紙の出版物の利用は減ったが、その元となるコンテンツの利用頻度ははるかに増えた。ブリタニカが紙をやめてデジタル一本になるように、百科事典、辞典類などもメディアとしては分解して、流動的なデジタルコンテンツとして活性化している。こういったことは紙の出版物だけではなく、CDにもTVでも起こっていることである。
時刻表も地図も人が行動するのに必要な情報なので、人が何をしようとしているのかという文脈に沿ったコンテンツが求められるし、その文脈にふさわしい使い方が求められる。紙媒体の場合は持ち運びがしやすいというのが「ふさわしさ」の一面ではあるがズーム・スクロール・リンクという点ではデジタルに負けてしまう。この使い方がサービスの設計にあたる。それはコンテンツ側から考えるのではなくて、文脈の側から考えなければならないので、本を作っておしまいという態度ではデジタルメディアは作れない。
デジタルメディアの特徴は、コンテンツを後からアップグレードすることは当たり前で、先に「コンテンツありき」では必ずしもない点である。例えばGoogleMapでは、日本は詳細なストリートマップが紙の出版の時代からあったので、それらがかなり反映したものとなっているが、そもそも紙の地図出版が発達していない国では、当然ながら日本のような表示がされない。外国をみるとものすごく粗いところもあるし、航空写真と比較しても地図が追いついていないところもある。むしろ日本のように詳細情報があるところの方が例外であろう。しかし今は情報の少ない国でもGoogleMapに徐々に情報を足していくことはできるだろう。
GoogleMapを使う側からすると結局は優れたコンテンツを求めるので、コンテンツ競争になって充実していくのであろうが、Google側からすると先に「仕組みアリ」であって、コンテンツに依存しないような設計になっているはずだ。過去の電子出版の揺籃期を振り返ると、コンテンツと、仕組みと、使い勝手(サービス)を一体に設計していたために、ITの変化とともにコンテンツやサービスの向上ということができずに短命で、販促もままならなかった。つまりこの3者をバンドルした(せざるを得なかった)ことの失敗だったのだ。
ソニーのβビデオはペンギンブックスと同じポケットサイズの使い勝手にこだわり、VHSは映画2時間丸ごと録画のコンテンツにこだわり、両者は別の道を歩んだ。これと同じようなことが電子書籍でも起きている。現実にはハードウェアの制約があるにしても、ビジネスの設計としてはITが変わることで、コンテンツもサービスもよくできるような考え方が必要である。しかもこれらは1社で全部する必要はなくなる。結局はよいコンテンツが勝つのであるが、コンテンツがよくてもサービスの競争力が伴わないならば、よいサービスをするところと組んだほうがよい。サービス側はコンテンツの質の競争が行われる場を提供するのがよい。
つまりデジタルメディアは、オープンな関係の中で育つのだということを前提に、パブリッシングの再構築を考えるべきなのだ。
Ebook2.0 Forumと共同開催
2012年6月20日(水)『出版ビジネスをサービス指向で再構築する』
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