投稿日: Dec 03, 2010 11:56:35 PM
出版社に新たな役割を期待する方へ
「電子書籍元年」も終わろうとしているが、11月にアスキー総研が行った電子書籍・コミックの最新動向調査(参照「電子書籍に読者は何を求めているか?」 http://j.mp/fOSIN4)を読む限り、半数の人はまだ気乗りしていないようだから、元年は空振りだったように思える。話題は読書端末やタブレット・スマートフォンなどのガジェットが賑わったくらいで、特別大きな動きはなかったのが表層ではあるが、上記調査では一度ダウンロード購入した人はリピートする場合が大勢であることから、継続的に電子書籍は使われながら徐々に伸びるであろうことがわかる。またニュースで度々出てきたのは、著者側の電子書籍に対する見解で、いままで出版社の陰に隠れていて知られていなかった両者の関係が伺えた。
両者の分析は別の機会に書くが、記事「読者から見た出版とは」では、新刊だけでなく古本・図書館・家族知人の本も読書対象であることを書いたことに加えて、著者側も本を上梓したい出版動機と、出版社の経営というのが利害という点では合致しているものではないといえる。出版社を挟む著者と読者とのギャップが拡大すると、それが電子書籍という変化へのエネルギーになる可能性はある。ここでは今問題の自炊や図書館の電子貸し出しや、これからいろいろなことが起こった後に、出版を巡る構造がどうなるかを考えてみた。
現在までは、まず出版社が制作から物流まですべての中心に居て、出版社ありきの出版である。これは紙の出版物を作るノウハウとも関係していて、品質やコストが出版社の管理下にあったからである。
出版社の最大のミッションは金になるコンテンツを見つけるとか作らせることで、著者に対してはHIT探しという視点が重要だったであろう。しかし著者にとっては発売部数よりも世に出したいという思いが強いこともしばしばで、本は500部も出せば用が足るような専門書もある。グーテンベルク42行聖書でも200部くらいだし、鉄眼版一切経はもっと少ない。ノーベル賞候補の論文でも数百のものがあるということを聞いたことがある。こういったものは現在の出版社のビジネスの範疇には入らないであろう。「情報価値」と「出版」はイコールではないのである。
また読者が本を買ったり読んだりしたあとに、どのようなことを考えているのかのフィードバックも出版社にはそれほど集まっていないだろう。書店のカリスマ店員がお勧めのPopを作って本が売れたように、フィードバックをうまく使うと本はもっと売れる。
こういった点は今のデジタルメディアとネットワークによっていろいろな解決が考えられ、それが電子書籍が単なる画面で文字を見るだけの装置ではなく、新しい出版の世界をもたらすのではないかと期待される所以である。それではデジタルメディアとネットワークの時代にふさわしい出版のあり方を考えると、著者は自主出版で沢山は売れないにしても、読者を獲得すればひとつの世界を創り出せて、またその後の創作活動などの土台に出来る。作品を媒介として何らかのSNS的緩いコミュニティが形成されることになるだろう。こういった中から出版社に委託して世に出る本もあるだろうし、出版社が電子書籍・紙の本・その他メディアやイベントをプロデュースしていろいろなビジネスにしていくだろう。
この構造は、作品→音楽家 読者→ファン SNS→ファンクラブ プロデュース→CD・音楽配信・番組・ライヴ・イベント というように考えると判りやすいだろう。デジタル化によって、作品と、出版と、読書が、それぞれ独立して動き始めた。これからの出版はそれらの特徴を最大限活かすようにプロデュースすることが役割になるのではないか。