投稿日: Apr 03, 2012 12:13:46 AM
日本にも高度なベンチャーが必要と思う方へ
そもそもの話として、アメリカのベンチャー企業というのが単なる起業と異なるのは、大学や研究機関で他に類の無いすぐれた研究をしていた人が、その成果を元に他から出資してもらってユニークな企業を作り上げる点であった。アメリカの場合は大学の先生が社長も兼ねているということが許されるので、こういうことができた。また有名な何々教授の会社が倒産、なんてニュースもあった。だからといってその教授の評価が下がるわけでもない。何度も起業を繰り返す先生がいることから、研究とビジネスの成否の関係は、資本金と成否の関係程度に見られていて、倒産などのマネジメントの失敗は個人の業績とは切り離されているようにみえる。
CADの研究開発からPostScript・グラフィックス分野のビジネスを起こしたAdobeは身近なところだが、医学、ナノテクなどの最先端分野にはその手の企業がひしめいている。ところがネットの時代になるとGoogleでもAmazonでも数学者、統計の専門家というのがECのビジネスを変えるようなことが起こり始めた。マイクロソフトもmsnに関しては大物教授を獲得したことが話題になったことがある。記事『本から始まって本に戻るAmazon』ではビジネスのマッチング(誰に何をどう売るか)の最適解を得るのに、あたかもコンピュータが将棋やチェスの打つ手の計算のようなアルゴリズム開発をしていることを書いたが、人間の名人を破るくらいのコンピュータパワーを使ってビジネスをしようという時代なのである。
これがBigData云々がテーマになる理由であって、iPhoneアプリで企業というのと一緒くたんにベンチャー起業として論ずるわけにはいかないだろう。最近はWeb広告関係の人もマーケティングにBigDataを使うべきという話をするが、BigDataを扱うことはどこにも外注のしようがないほど非常に高度なことであり、しかもAmazonはマーケティングだけにそれを使うわけではなく、サプライチェーンマネジメントもWebサービスにもつかっているわけで、経営全体がBigData処理をベースに動く会社になっているからできることである。つまりマーケティングはマーケティング屋に任せるようなつぎはぎはできなくなっていることでもある。
残念ながら日本には数学者の集まった会社のような専門性の高いベンチャーはまだいくらもないであろうし、それを期待するとか応援することもまだあまりないだろう。Steve Jobs の場合は彼の意思がコンピュータの世界を変えた例であるが、今ネットで接客する時代になって、コンピュータを駆使して得た知恵がビジネスを変える、社会を変えるというところに挑戦するベンチャーが伸びることになるだろう。少し前にグリッドコンピューティングが話題になったことがあるが、そういう研究がビジネスの背後で生きるようになっている。しかもそれは寡占化する。AdobeのRIPにかなう他の会社はほんのわずかしかないように、先行した会社のノウハウがわかりにくいからである。BigDataを扱うデータセンタの内部は秘密で、独自のサーバ・独自のOS、独自のツールで固められている。
日本の、失われた10年、失われた20年というのは、経済だけではなく、国際競争力という点では深刻なギャップを生んでしまったように思える。