投稿日: Jun 06, 2013 1:17:29 AM
キュレータに必要なもの
雑誌が衰退していくことで、従来は雑誌を媒介として成立していたような擬似コミュニティも霧消しようとしている。例えばデザイン雑誌が減ったことを著名なデザイナと話していたら、日本のデザインの水準が上がって、作品展示としてのデザイン雑誌を見て真似るようなニーズがなくなったからだという意見があった。しかしそれはビジネス用のネタ探し雑誌という時代ではなくなったということではあっても、プロのデザイナが他人の作品やその使われ方を知ったり、批評に耳を傾けるというニーズは別にあるのではないかと思った。つまり一般の人はデザイン論に加わる必要はないとは思うが、プロ同士の切磋琢磨とか知見を高めるという世界はあるはずなのに、雑誌がそういう本当のコミュニティを創り出すことはできなかったということだろう。
記事『漂流するクリエーター』では日本のマンガ家が師弟関係という世界を中心にしていたために、その関係がなくなった場合にはどこにも帰属先がなくなり、作品をトレースすることも困難になっていることを書いたが、それと同じことがデザイナにもいえるような気がする。だからネットで雑誌に代わるコミュニティを作るとしても、それは雑誌がやってきた作品展示だけでなく、文化として総合的に考えて設計する必要があるだろう。それは紙媒体のような有限の配布物ではなく、デジタル・ネットの性質として無くならずに内容がずっと累積されていくものだからだ。
クリエータの人や作品のデータベースというのが必要になるのだが、それは一つのシステムではなく、いろんな人が運営するいろんなシステムが連携して活用できるようなものだろう。すでに研究対象になっているようなクリエータの場合はWikipediaに項目が作られているが、それらがまずバイオグラフィーの入り口になるだろう。
マンガや美術の場合は商業音楽のような権利関係の管理機構がないので、音楽著作権管理団体と似たような作品の登録データベースも必要だろう。ただしクリエータはアマチュアであってもいいので(というかアマとかプロの区別は本来的には無い)、NPOのようなボランティア団体が運営するWikiのように自由に運用できる緩いデータベースになるだろう。もしその業界にニュートラルで中心的な団体があればその管理下に作られることが望ましい。
これらを一般の人が利用するものではなく、いわゆるキュレータのような役割の人がコンテンツに関する情報を参照するために役立ち、それによってキュレータの働きが活性化することに意味がある。また音楽著作権管理と似た構造のデータベースにすることは、作品に関する権利関係が明白になり商業利用を円滑化活性化することにもつながる。
こういったWikiとデータベースの周囲に、まとめサイトのような形で、ネット上にある関連情報の研究・批評とか売上などのマーケティング情報が集まってくることで、その時々のトピックなコンテンツとか、時代を超えた名作などが話題になることが文化振興のインフラとして必要だろう。
今は主にサブカル分野で盛んなのだろうが、ネットで上記に関連した活動をされている方が、オープンでいろいろな人が貢献できて、多様な参照の仕方ができる、成長可能な索引を作るためのフォーラムとかコンソーシアムを始めてもいいのかもしれない。