投稿日: May 29, 2012 1:15:53 AM
3月4月の研究会を踏まえて
eBookというのはIT利用が社会に浸透したことへの対応をした出版のモデルであって『出版は持続的な発展をする』のだが、それには既存のコンテンツだけではなく、利用者の成長とともに提供側も成長していくことが必要である。そのためにeBookのビジネスモデルは多様で変化しつつ、コンテンツを充実させていくことになろう。出版の経営は大量に販売して売上の伸び率を指標にしたものから、安定的によいコンテンツを世に送り出していることが指標になるはずである。それで実際に会社を維持するお金がまわるのかという疑問があろうが、世界的にみれば中小出版社の経営は大企業とは異なり、市場が支えてくれる範囲で行わなければならないもので、それはもう紙だけでは成り立たず、eBookとともにいろんなビジネスモデルの複合で成り立つものとなるだろう。
つまりベストセラー本などのマスマーケティングの世界は今の流通にまかせたままでもいいだろうが、それ以外は自社でコントロールできるような、専門店、図書館・図書室・読書会、レンタル、クラウド、ダウンロードなどの販売戦略を作らなければならない。それらの細かいところは出版社自身では担いきれないから、例えば従来から図書館流通のような中間のプラットフォーム業者を利用することになる。AmazonならmobiかEPUBでクラウドに提供すれば手間がかからない。こういったそれぞれのプラットフォームに向けてeBook対応をするので、前述のように複数のモデルが変化する状態が続く。だが、それらをぬって市場と自分の成長があるような戦略を立てることが重要だろう。それがないとデジタル対応は骨折り損になって、何も残らない危険性もあるからだ。
以前に調べたときには欧米では人口当たりの図書館の数が日本の倍ほどあり、それを日本にあてはめるなら、各図書館が採用してくれる本なら、それだけで何千冊かは売れることになる。つまりある分野で本を出す場合に、どれが図書館の採用にふさわしいかとう競争になり、ベストセラー本の販促とは大きく異なる。専門家によるそれなりの書評が必要になるのだろう。ビデオやCDもニッチなファン向け以外はレンタル店の数が売り上げに関係することと似ている。従来の多点数発刊して取次ぎに任せる時代から、良質のコンテンツをベースにサービスの質が異なるそれぞれ何千とか万とかの単位のビジネスの積み重ねを自分でしていく時代に入っているのだろう。
だからeBookに単純に商機があるというよりは、eBookは出版ビジネスのリセットのようなもので、そのよいところは当面はフェアな競争状態であり、市場が細分化されるけれども垣根が低くなって出版社側からは読者へのリーチが広がるものである。そこでどれだけビジネスが成立するのかはコンテンツの質とともに、どれだけ読者とよい関係を作れるのか、それを通して多様なサービス展開ができるのかにかかっているだろう。出版社が隣接権を持ち出す意図として、コンテンツの金庫番をしていたらお金がまわるように考えていたとしたら、それはナンセンスな話だ。