投稿日: Oct 19, 2010 11:17:22 PM
出版と読書の間に距離を感じる方へ
出版=書物=読書 という図式がよくでてくるが、これらのつながりはどこを起点に見るかで相当異なるもののようだ。出版社は自分の作っている本があって、その購入者がいる、と言う見方である。ここでは本は自分のものだということと、客とそうでない人という意識がある。本は自分達のものだという考えは、著者は仕入先であって、自分達が作ったのだから、本の命運は自分達が決めるということになる。例えば値段のつけ方とか増刷・改訂・絶版などを決めるのは出版社だ。こんなことは今まで議論にはならなかったことかも知れないが、eBook・電子書籍というものにしようとすると、すべてが引っかかってくる。今まで道理では行かないのだ。
著者にしてみれば工業製品の仕入れではないのだから対価の支払いに関してはもっと交渉させてもらいたいと考えている。また本気で自分の本を売ってくれるかどうか、マーケティング能力、ブランド力という点で版元を評価する。eBook・電子書籍に関しては日本のどの出版社も実績は無いに等しいので、著者は電子書籍にはどんな流通経路が望ましいかとまどっている。著者の立場を尊重したエージェンシーが日本で生まれる可能性はある。著者にとって大事なのは何部売れるということはあるにせよ、読者の反響や評価である。売れることは反響の大きさを表すが、読後の評価を知るにはBlog検索やAmazonを見るのだろう。著者にとってはeBook・電子書籍は読者とのつながりが強くなるという点での期待もあるだろう。
冒頭の図式と最も一致しないのは読者の立場であって、出版社はコミックも写真集も雑誌も含めたビジネスであるが、書物の読者はそれらは眼中にない。いくら日本は電子書籍の実績があると統計数字を出しても、コミックはそもそも書籍に含めるのがおかしいと言われてしまう。読書家は古書店・古本屋(両者の違いは?)にも図書館にもよく通い、必ずしも出版社の客とは限らない。しかも気に入ったものは自炊してKindledで見るようになるとか出版社の神経を逆撫でするようなことを始めた。本を家族や知人と廻し読みもする。これは有料のサービスでは不可能なので自炊はなくならないだろう。
さて読者は著者と版元のどちらに比重を置くのか。当然ながら読後は著者のファンになるだろうが、新たなものを探すときは版元への期待感が大きい。しかし実は第一義的には読者は読者の方を向いているのではないだろうか。要するに読書のきっかけとなるのは書評のようにはっきりしたお勧めもあるが、それ以上に影響力があるのは書物に関する諸々の情報がもたらす緩い口コミによると思える。出版社が新刊をマーケティングするのがpushであるとすると、それに古本・図書館・家族知人の本が加わって読書対象となり、読者はそれらの中から総合的な判断で、自分の自由時間のどこかに本をpullしていることになる。出版社のビジネス対象よりも遥かに広い読書対象があるわけで、eBook・電子書籍も出版ビジネス以上になる可能性があるといえる。
eBook・電子書籍は電子読書とも言い換えられ、それがPCやケータイ利用のように生活者の手に委ねられるとなると、出版社が描くビジネスモデルでは捉えられない世界が出来てくるのだろう。eBook・電子書籍に際しては読者がどのような行動をしているのかマーケットのニーズをもう一度確認しなければならない。今後出版社が提供するサービスがフラストレーションを起こすとか絶版本の電子書籍化を遅れると、既存の出版界ではないPublishing流通が登場して、自炊のカオスを治める事になるだろう。