投稿日: May 25, 2015 12:30:53 AM
私は昔のアナログレコードでしか残っていないアメリカ黒人の音源をデジタルでリマスターするということをこの10数年やっていて、万の単位の作業をした。整理済のものでもCDにして200以上ある。それに加えて、VHSのDVD化を頼まれるとか、ビデオの編集もすることがある。通常は外部から依頼されるのは少量なのだが、時々数のまとまったものもある。以前にカセットテープに入った講演を200本ほどデジタル化して編集したことがある。またカセットに入った700曲くらいをデジタルにしてリマスターしmp3化したことがある。このデジタル作業自体に必要なソフトなどは一般に広まっているものであって、新たに工夫する必要はないのだが、問題はこういったビデオ・サウンドのメタデータをどうするかである。
アナログの音源やビデオはいわゆるパッケージ媒体と呼ばれるもので、本当に物理的なパッケージに収められている。たとえ素人が作成したものであっても、講演のテープには日時やテーマ・演者などが手書きされている。元が音楽の場合は、曲名・演奏者・曲名・レーベル番号・時間・年号・国…などレコード盤に記されたような情報をデジタルでも扱うことが求められる。mp3の場合はID3タグというのが決まっていて、mp3に変換するツールなどではネットから情報の中身をとってきて、曲のデータに付与してくれる。しかしネットに情報があるのはCDなどが発売されているものに限られ、それが無いような場合は手作業でID3タグを入れなければならず、かなり面倒である。
デジタルカメラならEXIFという決まりがあるし、AdobeもXMPというメタデータの決まりを作っているし、WindowsでもXML化された属性を取り込めるようになっていて、方向性としては一旦どこかでメタデータが入力されたならば、それを加工してもメタデータを引き継げるようにはなっている。しかし一番最初にデジタル化する際には頑張って自分でメタデータを入れなければならない。
実際にはアナログ音源をキャプチャしている歳に同時にキーボードを打つことはなかなかできず、せめてファイル名で中身が分かるようにするのが関の山である。つまりメタデータは後からぼつぼつやろうということで宿題になっている。
過去の持ち物を整理していて、古いレコード・VHS・カセットが見つかった際に、最初に目に留まるのはパッケージであり、そのパッケージにどんなことが記載されているかで興味の度合いも異なっていくる。その点ではLPレコードはジャケットのインパクトが大きく、また聞いてみたい気がしやすいメディアだと思う。これはパッケージがメタデータになっているからである。
ところがiTuneなどで蓄積した音源は、たとえアートワークのデータがあったとしても目につきにくい。デジタルは何らかブラウズなり検索をしてみなければ、有無さえわからないからである。言い換えると、自分がちょっと好きなものとか気にかかっているものを身近に置くということがやりにくい。ID3タグなどがあっても、メタデータがアクセスされにくく埋もれてしまっているのである。
さらに言い換えると、電子書籍などでもそうであるが、コンテンツと少し距離多くとそのまま疎遠になりやすいように思う。だから目下のヒット曲とか話題曲、買いたてのコンテンツ、「マイブーム」みたいな関心度の強いものと、ほとんど見なくなってしまうものの2極化が起こりやすいのではないか。これを救うのはメタデータをうまく活用できるシステムかどうかにかかっている。
どんな分野でもヒットとロングテールの2極化は起こるのだが、図の中間部がどうなるかはあまりモデル化されてこなかったように思う。個人の嗜好の管理という面でも、コンテンツのビジネスとして考えても、右方向位どんどんロングテールを伸ばしていくだけではどのような効用を現れない。むしろ中間部分へのアクセスを容易にするために、メタデータの編集が容易になることや、メタデータを活用した表示の工夫がデジタルメディアでは重要ではないかと思う。
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