投稿日: Nov 16, 2015 12:30:30 AM
テロ事件はなぜ起こるかを簡単に言うことはできないが、今回の無差別殺戮のような事件は以前から言われていた悪い予感が的中したようなもので、意外性はあまりない。直接的な動機はISへの空爆が始まったことへの報復であるとの声明が出ているが、空爆は実行のトリガーにはなっても、計画はそれ以前からあったと考えるべきだ。
悪い予感とは、ISの勃興の際にヨーロッパやアメリカなどからISに馳せ参じた若者が、いずれはそれぞれの国に戻って何らかの行動を起こすであろうと予見されたことである。これは実はISとか中東の問題ではなくて、ヨーロッパやアメリカなどの社会のうちに潜む何かがテロの動機になっている。
はっきりしているのは移民系の人々の格差問題で、元々階級社会である欧米では、移民の生活は若い人に苦い思いを沢山させていることだ。移民の最初の世代の人たちは、母国で何らか暮らしにくい理由があって、まだ欧米の方がましだと考えて、欧米での少々の障害にも耐えてきたのであろうが、その子供たちは欧米で生まれて他の欧米の人と同じ権利が与えられるはずなのに、彼らが生まれ育った欧米社会で自己実現できない壁を感じるだろう。
でも、移民は少数派で発言力もない。アメリカでは黒人がマイノリティの代表であったが、かれらは戻る国もなく、公民権運動などにエネルギーを注いてきた。しかし特に中東からの移民はそういう社会的な運動を起こすこともできず、ただ我慢しているしかなかったと思われる。なにか不満を言えば母国に帰れと言われるだろうが、世代が代わればそれは非現実的だ。
アメリカの公民権運動は非暴力だったので、そこに集まった黒人のエネルギーがテロに向かうことは極稀であったのだが、そういう非暴力運動の受け皿がなかったらどうなるのであろうか?
欧米で暮らす中東移民の子孫たちは、自分たちを受け入れてくれない欧米の価値観を身に着けることはなく、むしろ先祖たちのイスラム教に何かを求めるようになるのだろう。ボストンの爆弾犯もアメリカ社会における挫折の後にイスラム教に傾倒し、ニュースで見るテロに共感したのだった。今回のISに集結した後にフランスにもどったテロリストも、イスラム教を踏み台としてテロに共感していったと考えられる。
記事『13日の金曜日』では、テロを正当化するような口実を与えることを防ぐことがせめてものテロ対策ではないかということを書いた。今回の事件でいえばISが彼らに与えている価値観の間違いを判らせることであるが、欧米のムスリム・コミュニティにはその力が足りない。
移民が完全に受け入れられたり格差が無くなったりはしないだろうが、彼らが社会に対してモノが言えたり若干の政治活動ができるようにしておかないと、全くはけ口が無い状態になって、ISなどに希望を持つようなことが起こってしまうと思う。今の欧米はムスリム・コミュニティを隣人として受け入れることが優先課題なのではないか?
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