投稿日: Feb 01, 2013 1:30:32 AM
印刷会社が新たな価値を提示できるのかと思う方へ
講談社がHPのデジタル印刷機と製本ラインを導入したことが話題になったが、こういったシステムの有効性を検討するならば、日本ではミヤコシとホリゾンの組合わせとかの方が安いだろうし、実はいくらでも考えられて、すでに使われているところでは使われているものである。それはたいてい印刷会社の中であって、デジタルのバリアブルプリントになる前でも、コミックとか様式の決まった印刷製本が、Book-o-Maticとか宇野製作所の印刷製本システムなどで相当の自動化されたラインで作られていた。今話題のブックオンデマンドは大型デジタルプリンタを使うところだけが新しいといえる。
つまりデジタル印刷が登場した20年前から可能だったシステムが、どうして印刷会社ではビジネスにならなかったのか、というところをよく考えて見なければならない。一時はトーハン(と凸版印刷)とか日販といった書籍の取次ぎもデジタルのブックオンデマンド(BoD)に投資をし、一部は今も続いているが、これが出版制作とか流通に革命をもたらすものではなかった。しかしAmazonのBoDは役割を果たしているのはどういうことだろうか? Amazonの考え方は、注文があるのに在庫がないなら、作ってしまえばよいというものだからだ。そこでは印刷かプリントかということは問題にしていない。
印刷会社に設置されているデジタルのBoDは単一用途のものだからよいのだが、出版物一般では仕様・様式がいろいろあって、品質要求も高いので、例え印刷会社がBoDでここまでできますよ、といっても顧客である出版社と折り合いがつきにくい。カット紙の電子写真方式のBoDで表裏のノンブルの位置が1mmくらいずれることがあるという理由で採用されなかったことがある。発注者である出版社側はページを光で透かして見て表裏ノンブルの重なっているのを見る。しかしこんなことは読者はしないし、もし気づいてもそれで本を返品はしないだろう。
ロール紙・連続用紙を使う方式ではノンブルはずれないが、どんなプリント方式でもオフセット印刷に比べればどこか劣ったところは見つかるものである。従来の出版社と印刷会社との間のネゴシエーションでは、本の販売機会を増やすことは問題にならなかったようである。おそらく取次ぎ会社がBoDをしようとした際にも似た問題にぶつかったであろう。当時は書店で本を取り寄せると2週間とか待たされたので、BoDは一定の解決になったはずだが、販売機会の増大が最優先に検討されなかったと思われる。当時はバリアブル印刷ならではの新企画とか新ビジネスが話題になったが、そんな中で定着したものはなかった。
そして今日、もし講談社のBoDがうまく機能して、Amazonのように数百部の本が簡単に印刷・製本・流通するようになったなら、出版印刷という分野はどうなってしまうのだろうか? 記事『Book On Demand の復活』では、Adobeソフトで制作しないことで大幅なコストダウンになることを書いたが、これはそのまま文字ものの制作売上が成り立たなくなることでもある。講談社が印刷会社に依頼しないでBoDをするというのは、制作も含めて小部数印刷のサービスを印刷産業にもはや期待しないことの表れであろう。