投稿日: Mar 10, 2016 1:21:52 AM
2016年になって再稼働した関西電力高浜原発について、隣接する滋賀県の住民が大津地裁に訴えた運転を差し止める仮処分が決定した。この件について、なぜ滋賀県側が訴えたのかという理由がニュースでは伝わってこない。何時のころだったか議論されていたのは、高浜原発から30km以内が琵琶湖の源流になっているからで、もし福島原発のベントによって飯舘村に放射能が降ったようなことが福井で起きれば、琵琶湖の水が飲めなくなってしまうから、ということだったように思う。琵琶湖は京都から大阪など多くの人口を抱える地域の水源でもあるからだ。それだけに原発事故が起これば地元の人は逃げれば良いというだけではなく、事故対策は広範に重要視されているのに、それに見合った検討がいまだになされていない。
原発の建設にともなう保証などは一般に当該県に対して行われるのだろうが、原発事故に対して責任を取らなければならない範囲はその県には留まらない。福島の事故でも海に流れ出した放射性物質は、遠くは北米にまで流れていく。それは黒潮に乗るからだが、漁業への影響に限って考えると、沿岸近くは親潮が来たから南に流れているために、海底の放射性物質は茨城や千葉の沿岸部に広がり蓄積していく。福島以北には積もり難いのである。だから海底の海洋生物の生態が、福島、茨城、千葉とそれぞれちょっとずつ違った変化を見せている。
さてこういった調査は一体誰の仕事だろうか?
各県はそれぞれの住民の生活の安全のためにいろんな施策を限られた予算の中でしているのだろうが、県をまたぐ調査とか、海洋とかになると、おそらく今までは環境調査そのものが原発のモニタリングの検討対象にはなっていなかったのではないかと思う。それは民間企業が営利で原発を運営するような日本の制度が抱える欠陥である。企業は収支を度外視してまで管理体制を整えることはできないからだ。世界的にみても民間企業が原発運営をする例は少ないという。
原発の安全性とか事故対策を、個々の企業や個々の自治体に委ねて、それぞれの損得や予算で運営することを止めて、もっと広い視野で、長期にわたって検討しなければならないことは、核廃棄物の処分が未だ決まっていないことからも明白だし、老朽原発の廃炉も個別には手に負えないものになっていると思われる。
関西電力は控訴する構えだが、これからは県を跨いだような訴訟が増えていけば、個々に訴訟合戦をしていても埒があかない問題であることが次第に分かってくるだろう。
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