投稿日: Aug 09, 2010 11:13:55 PM
電子書籍は出版界の占有物ではないだろうと思う方へ
電子書籍を巡る既存の業者・業界の思惑と連携や対立、あるいは無駄な動き、また無定見な提案、アマチュアリズム、便乗ビジネスなどなどのニュースを多く目にすると、電子書籍に嫌気を感じる人がいても不思議はない。こんな無秩序な中から良いものが生まれるわけはないと考える人もいる。極端な場合は文化の崩壊を説く人までいる。しかし特定の人の声とは対照的に物言わぬ多くの人は画面で文字を読むことを特別のことだとは思っていないだろう。要するに面白ければ、また必要があれば見るだけだからだ。どんな世界でも新しいものが生まれる前夜はカオスに見えるし、一時的に品質が落ちることもあるが、新たな文化として立て直す力は日本総体の力であって、出版側が文化を担っているというのはおこがましい。文化は自然に興ってくるものである。
このようなギャップは何処から来るのか。それは電子書籍・eBookには従来の出版ビジネスや出版文化からはみ出るところがあるからだ。あくまで従来の規範と比較した場合に電子書籍・eBookには特異な点がみえるということで、それに尾ひれがついた議論がされているように思う。だから、もし電子「書籍」とかe「Book」と呼ばずに、電子「ページ」とかe「Page」というような名前であったなら、だいぶ議論は減ったのではないかと思うくらいだ。要するに従来の出版を基準にしては、電子書籍・eBookの実体と向き合うことは難しそうだ。
既存の出版は本を売るビジネスに重点があるので、無料の情報発信が眼中にない点が特徴であり、またそこが今日の諸デジタルメディアとの齟齬にもなっている。音楽がさんざんラジオで流されているように出版以外のメディアは無料のコンテンツの海にところどころ有料コンテンツがあるのが常識であったからだ。今まで印刷コストという障壁があって無料化しにくかった出版コンテンツが、無料でコピーできるデジタルで流通し始めて、同じ境遇に立たされるようになった。無料モデルは実は図書館のように書籍でも存在していたのだが、図書館は管理されているのに対して、コンテンツ無料流通がオープンな世界になっていることが既存の出版界の恐れにつながっているのだろう。
しかし冷静に考えてみよう。出版というのはそもそも世の中で行われていた多様な情報発信の一部(最上層と当事者は考える)であり、それ以外の情報発信の方が世の中にははるかに多くある。デジタルは後者のパフォーマンスを押し上げた。Webも固有分野の情報共有のために始まり、学術用とか、業務用になり、さらにBlog・SNSという生活者の情報共有へと広がっていったことは自然なのである。こういった情報発信の進化の先に起こるeBookもあるだろう。むしろそちらの方が伸びるかもしれない。例えば学術誌や研究発表などで、印刷や発送の経費問題から、紙をやめてWebにしたものも多いが、それらはeBookで復活できるし、Webと同じ検索性やリンクもeBookなら持たせられる可能性がある。
eBookの進化は、何らかの理由で「本にできる/できない」に迷うボーダー領域から始まり、そこで出現した新たなスタイルが商業出版に波及するような流れも考えられる。