投稿日: May 08, 2015 1:29:31 AM
マイクロソフトが日本でパッケージソフトを売り出して市場を席巻した際に、ソフトの機能云々とは別に、価格が他の輸入ソフトよりも大幅に安かったことも売上増大に大きく貢献した。日本のソフトでもマイクロソフトの値段には負けるようになって、パッケージソフトというビジネスは傾いてしまった。
当時私はISO10646(後のユニコードと互換)のワーキングで忙しかったのだが、その理由は何よりもマイクロソフトがWindows95 にユニコードを取り入れたいがために、せかしていたからだった。この時の話題はインターナショナライゼーションで、ソフト開発を多言語前提で行うためだった。それまではまず英語版を開発し、後から各国語版のローカライズをしていた。文字コードは各国ごとに標準があったからである。
つまりアメリカで作ったソフトを日本で売るとなると、ソフトのローカライズとマニュアルやらパッケージの作り直しで小売価格が3倍になってしまうような状況だったので、日本のソフトは安泰であったのだが、マイクロソフトはそういうITのローカルな言語環境をぶち壊してグローバルな言語環境を作り出そうとしていたし、そのことはAppleもIBMもアメリカのIT産業はこぞって賛成していた。当時はゴアのインフォメーションスーパーハイウェイの時代で、ITで国際的にビジネスをすることはアメリカの政治課題でもあった。
そのころからグローバリゼーションということはよく言われたが、ITにおいては実質はアメリカの戦略でしかなく、世界のITインフラをアメリカは仕切ろうとしていた。しかしマイクロソフトのような金のなる木はもうない。Appleは好調ではあってもコンシューマ分野に偏っているので、iPhoneやiOSがビジネス分野や公共分野で使われることはなく、波及効果は期待できない。Amazonも各国に税金を払わなければならなくなってきた。
今アメリカは世界のデータセンタのようになっているのだが、中国やロシアはそのようなものは使わないだろうし、もっと安いデータセンターがアメリカ以外にできるようになるかもしれない。インターネットのような標準技術でアメリカが今後稼げる部分はあるのだろうか?
2000年のITバブルの頃はまだ東西冷戦の終結後のロシアや解放政策の中国のIT力は低かったが、今グローバルなインターネット企業のトップ層に中国IT企業が名前を連ねるようになった。またロシアも中国も国際貿易黒字になって開発力も高まるとともにアメリカへの依存度を下げようとしている。中国は貿易のドル決済から脱皮しつつあり、ロシアもドル決済をやめようとしている。ということは冷戦終結後やむなくドルを使っていた2大国があったわけで、それはドルのバブルの一因であったかもしれない。
落ち着いて考えてみると、1980年代のCALSでは米軍にせかされてSGMLを決めたとか、1990年代はマイクロソフトにせかされてユニコードを決めたとか、その後のネット検索(国家によるものからGoogleまで)などのような、強力なアメリカの戦略的ITテーマは今はもうないように思える。ということはアメリカ依存は自然に薄れていき、アメリカ依存ではない真のグローバリズムの始まりなのかもしれない。
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