投稿日: Aug 11, 2012 1:37:6 AM
見栄えの議論をしている場合ではないと思う方へ
今週目を通したニュースでもっとも深刻に思えたのは、スマホになってゲーム以外の既存のコンテンツは伸びなくなったことである。スマホの所有者や利用者が増える中で、あらゆるコンテンツビジネスがスマホを対象にしつつある中で、従来と同じものをスマホに持ち込んでもみんなが伸びるわけではないことが明らかになりつつある。これはスマホに限らず、今話題の KoboTouch やこれから出る KindleTouch でも同じだし、2年前なら iPad が出たときにカラー雑誌のパラパラめくりが期待されたのが、大して伸びなかったのと同様である。要するに既存のコンテンツをそのまま使いまわしながら、新しいでデバイスでの見栄えがどうのこうのと議論したくなる気持ちもわからんではないが、それより重要なことがおろそかになっているように思える。
とりわけ日本の大出版社も資金源にしてきたマンガの世界がPCやケータイの電子書籍ではメインのコンテンツとなったが、スマホ・タブレットや読書端末の時代にどうなるのか? 今までは端末の普及が増えればコンテンツが売れるようになるのではないかと見られていたが、本当にそうだろうか? マンガとかアニメのような表現は日本の文化に合っていて作り手も多いので何らかの作品は新たに作り続けられるとは思うが、それは紙のマンガのフォーマットをずっと踏襲し続けるのかどうかは疑問である。例えばマンガの吹出しは紙では絵とともに最初からあるが、パワーポイントとかニコ動のように後から文字が画面にかぶさってくるようなことはできるようになった。今すぐにマンガの作風が変わるとは思わないが、エンタメ的な工夫がされていく可能性はあるだろう。
デジタルのメディアになって制作工程が効率化するとか再加工がしやすいとか生産性向上というメリットがあっても、クリエータにとって最重要なのは自分にとって刺激となるような制作方法ではないだろうか。ケータイ小説がそれまでの小説と異なるのは、作家が移動しながらケータイで文字を打ち込んでいたりすることで、感覚を得た段階でいつでもどこでも情報を生成しやすくなっていることが、若者にとって新鮮な表現になったのだろう。素人でも人に知らせたいようなことが起こった場合に、ケータイ・スマホで写真をとって即メールすると、知人と感覚の共有ができやすいのと似ている。しかしまだグラフィックツールにおいてクリエイタ側から考えられたデジタルメディア向けのものは少ない。
グラフィックツールの高度化はCG・3D系が多く、それらは先にイメージができた後から使う道具であって、最初には絵コンテのようなものが必要なのだが、その清書ツールはあっても、もっと最初にインスピレーションを得た段階で、スマホなりタブレットでメモるとか、ひねりを考えるツールはまだないようだ。前述の吹出し文字が画像にかぶさる効果をどうやってセッティングするかを考えた場合に、この最初のイメージの着想の段階で絵と文字の関係が出来ているはずなので、それらと効果を同時にメモるツールがあればよい。最初は1コママンガのものとして使われ、その操作面がこなれていけば、ストーリーのあるマンガに、またアニメの絵コンテになり、という発展をすると同時に、絵コンテそのものが素材データとして売り買いの対象になる可能性もある。
クリエイティビティは絵の表現だけではなく、ストーリーや脚色やいろいろなところにあるのだが、それらを一人で短時間に処理していたのが週刊少年漫画の世界であった。これを分業化して蓄積・再構成するようになると、ストーリーと表現は別物として発展していくであろうが、いまはこのことに役立つデジタルシステムはまだない。おそらくCG映画の世界がお手本になるのだろうが、デジタル表現の新たな土俵で、新たなクリエイティビティを発揮できる時代がくるだろう。