投稿日: May 30, 2012 11:54:26 PM
人は何にお金を払うかと思う方へ
昔から「コンテンツは王様だ」「キラーコンテンツ」という言い方があるように、メディアビジネスはコンテンツありき、と考えられている。これは間違いではないが、コンテンツの金庫番をしていたらお金がまわるわけではないことを、記事『コンテンツの競争力:量から質へ』で触れた。つまりコンテンツをベースにどうしたらお金がまわるかということは別にあって、ベストセラー本というのはコンテンツとは別に話題が話題を呼んでいることをアピールしているし、人々がコミュニケーションする共通の話題提供というのも役割であるように、本にまつわる仕掛けや効用というのも合わせて企画されている。つまり文字の編集や校正だけが出版ビジネスではなかったはずだ。
記事『出版のアプリ化というパラダイムシフト』では、eBookで利用者自身が参加して使うようなものは、出版側がトップダウンの考え方で「自分たちが最良のものを提供する」という想いから抜け出すことが必要ということを書いた。eBookは何が何でもいろんな仕掛けを入れてインタラクティブにすべきということはないのだが、紙の本よりは利用者のエクスペリエンスがどのようなものであるのかを良く考えなければならない。それを設計することが出版におけるサービスだといえる。これは実は以前からあったもので、新聞は大きな紙に字や写真を詰め込んだものではなく、朝起きたら郵便受けに入っているとか、駅を通りがかりに手に取ることができるなど、コンテンツと販売面でのサービスがセットになったビジネスである。
つまり紙でも電子でも同じコンテンツの場合は同じようなビジネスになるのではなく、利用者から見れば使われ方、提供者側ではサービスというのが再設計されなければならない。記事『出版は持続的な発展をする』では今日では国民みんなが欲しがるコンテンツは何かという、欠乏状態における「受け身のマス」を市場としてみる考え方は不向きと書いたが、従来の出版・取次・書店の連携に縛られて、新たな出版ビジネスの構築が行いにくい。しかしeBookだと再販もないとか、出版のパラダイム転換をするのに好都合の環境になっている。だからeBookという土俵にチャレンジャーが集まってくることが予想される。
念おしとして、紙の本がダメになるとか、文字もののeBookが意味がないというのではなく、それらも含めて出版ビジネスにおけるサービスとは何かを問い直すのが、今日的な出版の再定義である。すでにeBookでテストマーケティングをしてから紙の本を出すところはあって、そこではeBookで評価を得られたコンテンツは図書館の蔵書にもできるというサービスの関連付けを意図することもできる。また紙の本の提供でも、読書会とかゼミでの利用にはeBookでのソーシャルリーディングをサービスするということも考えられるだろう。