投稿日: Oct 04, 2012 1:21:12 AM
日本にアメリカ式は馴染むかと思う方へ
10月3日の研究会は、ちょうど日本に滞在中の大原ケイさんに、アメリカでの著者・出版社・読者の関係変化についてお話いただいた。うすうす感じていたアメリカという契約と訴訟の国で出来上がったシステムと日本の出版ビジネスの商習慣の隔たりが、かなり明確に認識することができた。まず大原氏は日本の電子書籍の立ち上がりの遅い理由を4つほど挙げられた。
①権利関係が不明確で権利処理に時間がかかる。
②日本語文の査読には英文よりも手間ひまがかかる。
③電子書籍をガジェットに縛られた見方をしている。
④出版社の組織がマンガ・雑誌・書籍の複合なので決定が遅い。
それと出版に限らないが人材の流動性がないので、アメリカのように簡単にクビになって新しいことを始めるようなことが少ないなどである。
このうち権利問題は、アメリカでは出版の最初に何十ページの取り決めがあって、それは自分の事務所を持つような有名作家以外は手に負えないので、著者と出版社の間にいるエージェントが扱う。日本には著者の立場で動くエージェントがないので、有名作家以外は権利関係を明確にすることができないのだろう。日本でも最近はエージェントと名乗る活動が見られるけれども、エージェントと作品を世に出す出版プロデューサとの違いについては、前者が著者の得る印税の一部をもらうのに対して、出版プロデューサは先に著者からお金をもらって企画から面倒を見てやるということのようだ。要するに著者はヒットしてもしなくても特定のエージェントと一緒に仕事をして、エージェントは個別作品の売上げでなく、オーバーオールで成り立つように考える。著者にとってどこの出版社から出すかはあまり問題ではなく、日本の出版社はエージェントを嫌がるだろうとのことである。
著者からすると、最初にどこかのエージェントに認められて、エージェントが出版社に企画を持ち込む。エージェントには著者から送られた原稿が山のようにあって、誰かに「これ面白い」と発見してもらった後に契約の話が進む。つまり作品はエージェントで一回フィルタにかけられてから出版社に行くので、出版社にとってもリスクは減るのだろう。また日本で編集者が著者なり作品に入れ込んで「ぜひこれを世に出したい」と思うようなところをエージェントが受け持っているともいえる。出版社は販売計画を来年、さ来年にわたって立てていて、レビュー・書評用に本を数百部印刷して配るとか、作品の仕上げとプロモーションに十分な時間をとっている。
日本と比べると出版に至るプロセスの役割分担が、作る側と売る側というようにできているともいえて、本作りすなわち作家・作品を発掘して面白いものを熱意を持って世に送りたい人はエージェントに携わるのがいいわけだし、どれだけ稼げそうかという指向のビジネスパーソンは冷静にマーケティング・プロモーションをすればいいわけだ。アメリカでもエージェントは編集者出身者が多いという。だから日本で出版に携わる個々人にとってはアメリカモデルが受け入れられないわけではないと思う。
今の日本の出版ビジネスは、エージェントが不在なことで権利問題をはっきりさせられず、それが出版社が包括的に権利を持つ隣接権の設定に向かわせているともいえる。しかしもし隣接権ができたとしても、他方で出版社によらない出版は電子書籍で一気に容易になったので、日本なりに新しい契約関係を作ることも起こってくるのだろう。
電子出版再構築研究会 名称:オープン・パブリッシング・フォーラム Ebook2.0 Forumと共同開催
10月17日(水)16:00-18:00 新しい出版マーケティングの時代