投稿日: Jun 21, 2014 2:26:33 AM
記事『偽科学の温床』ではシニアオーディオのことを取り上げて、計数化できる要素を無視するとか避けておいて、自慢話を交えて薀蓄を語るところに偽科学が入り込むことを書いた。秋葉の元オーディオ屋がネットで立派に偽科学グッズ屋に変わっている例もあった。とりわけオーディオの世界は電気の無い時代にエジソンがレコードを考え付いたように、原理はシンプルであり、そこをはずして、ケーブルが純銅とかネジがステンレスとかコネクタが金メッキとか枝葉末梢の薀蓄に悦に入っているように見える。
前記事でレコードの溝も針先も簡単な顕微鏡写真が今は簡単に取れるし、それと波形データをつきあわせればよいことを書いたが、それをしないでは音がいいとか悪いとかは言うべきではないと思う。実際に過去にオーディオ機器開発に取り組んだ人は前述の薀蓄は問題にしないし、またカートリッジや針によって音がそれほど違わないことも知っている。一番音が違って聞こえるのはスピーカーだろう。さらに言うと聞く部屋や位置や耳の状態なども関係するが、これらはレコード再生に限らず楽器や生音にも通じる話なので、取り合えずはオーディオ談義に含めなくてもいいが、前提としては知っておくべきである。例えばフラメンコでの足ふみとか、ウッドベースなどは床も楽器とみなしてもよいというようなことである。
しかし実際にレコードをかける際にカートリッジや針を交換すると聞こえ方が変わるとか良くなる経験をした人は多くいる。だから針やカートリッジに音のヒミツがあると考えがちである。だが上の図のような針と溝の関係を考えれば気が付くのだが、針は溝の両側の2つの点で接していて、そこで揺さぶられた運動量が音に変換されている。この針と溝の接するところとうのは、針先の半径によって異なってくる。例えば針を変えるとほぼ必ず半径は異なり、つまりレコードと接する部分が変わるので、間違いなく音は変わる。しかも今まで擦れていた溝の場所よりも高い位置で接すると、新しい溝の面であり、しかも高い位置では左右の移動量も大きくなって音は大きくなる。だからよく聞こえて当然である。
逆に悪くなる場合もある。針の径がばらついているからである。針の箱には0.5milと書かれていたとしても、実際の製造工程での品質管理ではそれほど精度はないので、0.45かもしれないし0.55か0.6かもしれない。針はJISで決まっていたはずだが、78回転用と33/45回転用では1ケタ近い開きがあるので、それぞれプラスマイナス10-20%違っていても問題ない時代だったのである。
だから今日1000倍くらいの顕微鏡を買って針先の計測をするならば、レコードの溝に最適の針を選ぶことができるだろう。
当然針よりもレコードの方が消耗品なので、溝の状態の計測も常時行って、その都度どんな径の針がふさわしいかを検討すればベストの音質が得られるだろう。つまりレコードの溝の状態によってふさわしい針の径が異なるので、そのマッチングが第一で、カートリッジや針のメーカーを選べばベストな音になるわけではないことを言いたい。アナログのオーディオ機器に大した秘密はない。アナログだから音質管理がやり難いだけである。
こういうことは実際にたくさんのレコードを聞くのにたくさんの針を使っていればわかることで、毎日数時間で数年間の年季があれば、だいたい自分の記憶の範囲でふさわしい針を引っぱりだして聞くことができるようになる。レコードの状態が良くないとあまり立派なカートリッジは意味がないので、カートリッジは高級・中級合計数種類を使い分ければよいかと思う。それぞれに針が複数必要である。(注:トーンアームの問題もある)
Webで個人ブログを見ていると、オーディオマニアとはいっても機器を買って並べているだけで、聴くことにそれほど年季が入っていないと思える人がいる。別に機器を買う趣味があっても悪いとは言わないが、音楽を聴きこんでいる人に比べると人生の生きている時間を無駄にしているように思えてしまう。