投稿日: Jun 23, 2012 1:13:21 AM
やはり何のためのEPUBかを考える方へ
日本電子書籍出版社協会から「EPUB3.0日本語組版要望表」というものが出た。EPUB3.0はもう出ているので、要望を出すならEPUB4.0に向けてであろう。また内容は日本語組版に限らない文字サイズとかインライングラフィックスとかリンクとか一般性のある項目が沢山ある。要するに電子出版全般に及ぶことであって、出版物の多様性から考えると永遠に続くテーマであるともいえる。この要望表は同協会メンバーの出版社にアンケートをして必要度を点数化してまとめたものであるので、出版社の要望の高いことが何であるのかはわかるが、どのような規格を作るとよいのかはわからない。それはさまざまな会社の要望をバラバラにつまんだものであるからだ。
また要望に対してどうやって実現するかというのをどこかで考える方法がある。つまり今進行中の規格の改定や機能追加も、すでに行われている方法とぶつからないように、場合によっては複数ある実現方法のどっちでも利用可能なように規格を決めていくのである。例えばかつでDTPの時代にフォントフォーマットに関してApple/Microsoft陣営とAdobeとぶつかりあったことがあったが、それはOpenTypeという方法で両方認める規格となっていった。情報規格というのは、どのような情報を用意すべきかを明らかにすればよいのであって、結果の少々の優劣などは問題ではないのだし、実現できることや品質はレンダリング側の改善で次第に何とかなっていく。
つまり要望がかなえられるかどうかはリーダー側の能力次第であり、AppleのようにEPUBに対応していてもEPUBにはないHTML5要素を使った機能拡張をした専用リーダーが実際の制作のターゲットになる。こういう拡張部分で一般的に利用度が高まったものが次段階で規格に反映するべきものの中で優先順位は上になる。このように要望は具体的な実装方法に落とし込んで、どこかでテストしてからでないと、全体としてバランスのとれた進化を目指すこの種の規格には反映させるのは難しいだろう。先に課題解決のための大まかなのロードマップを作って、そこに個別の要望を当てはめて、徐々に実現していくことになろう。
EPUB3の際に日本から縦組を提案できたのは、先にW3CでHTMLのCSS3を使って縦組みをどう実現するかの記法を決めていたからで、このベースとしてDTP時代のJIS行組版方法があったことを、記事『時代を乗り越える日本語組版』『連綿と続く縦組みの糸 』で書いた。2011年の後半はEPUB3日本語縦組対応リーダーが続々と出てくるのであろうが、今のベータのようなものを見る限り、リリースされた後でもこなれたものになるにはまだ何度か手を入れなければならないだろうな、と感じさせられる。例えばルビをつけるとなると、その分の行間が必要なわけだが、これが十分にないとルビ文字が親文字のある行よりも直前の行に近づきすぎているようなものがあった。つまりルビの制御は行間の制御に関係する。当然欧文を縦書きの中で横倒しにして入れる場合には、欧文のベースラインを適当に動かさなければならない。これは使われる欧文フォントによって変わってくる。
というようなことを言っていると、画面にきれいに出すにはDTPと同じくらいのレンダリング機能が必要になってしまう。つまりPDFに近づいていく。これはエンジンやハードウェアの能力向上で次第にそうなっていくのであろうが、もしそれを待っていられないならば、いっそのことPDFを画面サイズに作ったほうが早く製品化できる。日本電子書籍出版社協会の要望を出した会社も現実的に考えれば、既存のPDFのような技術を使ったり、あるいはiOSなら独自拡張の機能を使ったりして、先行して製品化する道だってあるだろうし、そのような実績を積まないと次世代規格も見えてこないだろう。