投稿日: Jun 17, 2010 12:11:8 AM
パブリッシングの定義が揺らいでいると思う方へ
紙の書籍の場合は「書籍とは何か」という問いに答えるのは簡単であるが、デジタルになった場合は難しい。Webよりも前から電子出版という言葉はあって、Webの登場時は電子出版の一部のように考えられたが、他のパッケージ系電子出版に比べてWebだけ突出して発達したので、Webを電子出版とは呼ばなくなってしまった。しかしWebにPDFを置いておくものとか、ブラウザにページめくるビューワをプラグインするもの、それらの有料化のように今日の「電子書籍」はその頃からあった。これらは新しい何かであるとは認識されなかったのである。
その理由は紙を越えないからだった。つまり情報のパッケージ化が完了されていて、内容は固定化され、その日付も確定している。このような、編集→ポストプロ→完パケという静的パブリッシングと比較して、Webはデータベースから最新の情報を表示するとか、他サーバに分散してある情報をその時点でまとめてアグリゲーションするので動的パブリッシングである。静的と動的のどちらが優れているという問題ではなく、過去のまとめを知りたいときは静的なものが便利で、最新の動向を知りたい時には動的なものがほしくなるという使い分けがされている。
動的パブリッシングはデータベース検索やRSS・アグリゲーション、ライブ番組などであるが、それらを企画・制作していく際にもアーカイブとしての静的パブリッシングは参照されるので、連綿と「静→動→静」という循環がされていくのだろう。そもそも紙の本そのものが世界の一部分を切り出した索引の役割を果たしていて、ある本を読むと関連した本を読みたくなるような、学習の好循環を作り出している。本は単独にあるのではなく、本の外側に何らかの文脈があるのだともいえる。たとえ文芸作品のようなエンタメであっても、その作家の別の作品や類似の分野、流派・系譜という情報が本の外側にある。
「電子書籍」という言葉を持ち出したのは、パッケージ編集された作品性を重視したからであろう。「電子書籍」はアーカイブは同義である。アーカイブにコンテキストをつけるのが動的パブリッシングといえる。読者個々人には何らかの趣味・指向というコンテキストがあって別の本の発見に努めているのだから、デジタルメディアでは本を見つけるための書評やお勧めなどを動的パブリッシングという形で機能する時代に向かいつつあるように思える。読者においても「静→動→静」という循環がされていく。ビジネスとして考えると静と動のどちらかだけを考えるのではなく、うまいバランス関係を作り出すことが重要だろう。