投稿日: Jul 16, 2010 11:7:30 PM
パブリッシャーの生き残りを考える方へ
角川書店に関した記事『メディア事業の業態変革はマーケティングから』で、本屋大賞2010年を獲った "天地明察"の作家冲方丁氏は1977年生まれで、SFのほかゲーム制作、漫画原作、アニメ制作などもしているという、新世代のクリエータのことをを引き合いに出した。角川書店グループ自身がそのようなコンテンツを扱っていたので、こういったタイプの作家とは今後も一緒にいろんなビジネスをしていくことに拍車がかかるだろう。かつての書籍をベースに、ヒットしたら他メディア展開をするという、書籍の派生としてのマルチメディアではなく、企画をいろいろなメディアに同時展開するのが自然に思える時代になった。
他の印刷物でも同じだが、仕上がりを先に設計して、そこから逆算して途中のプロセスを作ってきたビジネスではなく、企画やコンテンツの展開をもっと自由に考えるべきである。先に特定の仕上がりを想定してしまうと、編集過程もそこに関係ない部分はそぎ落とされるので、コンテンツとしては制約を課せられているのと同じである。しかしコンテンツを多方面展開するのは、商品化という出口に向けてだけではなく、出版のバリューチェーンのいろんなところに機会がある。それを角川はつかんでいるのに、着手できない出版社が大半であろう。
例えば、バリューチェーンの入り口を考えると、作家育成、登竜門、コンテスト、ファンコミュニティ、それらに関したイベントなどがある。これら自身は売上げがなかったり、少ないものかもしれないが、一般企業ならマーケティング活動として重要なものであり、事業会社が自分でコントロールすべきものである。出口に関しては、書籍流通に依頼する以外にも、企業のスポンサーシップでのノベルティー化、学校・企業内用途に向けたOEMやサイトライセンス、教材用の特別版の廉価提供など、細かく見ていくといろんな販売機会がある。ひとつのコンテンツからこういった細かいビジネスをするよりも、自転車操業的でも新企画で商品をどんどん作りっぱなしにする、というのが今までの出版界のビジネスモデルだったのだろう。
つまり出版流通のレールの上にどんどん商品を送り続けるという経営と、核となるコンテンツをみつけてそこから最大の利益を得ようとする経営は同居しにくかったのではないか。しかしインターネットでロングテールからもビジネスが可能になるECの時代においては、細かいビジネスを人手がかからないようにモデル化していくところが競争の場になりつつある。またビジネスの外注をネットでできることは増えていて、多品種少量のビジネスはどんな産業でも増えている。出版においてもすでに、コンテンツは紙以外にWeb、ケータイ、スマートフォン、読書端末などいろいろな対応が必要になっていく。こういった事業の細分化を乗り切れるような経営に切り替えることがしたたかに生き抜く道であろう。