投稿日: Jun 05, 2010 1:26:34 PM
フリーにしたらビジネスにつながるか疑問の方へ
ここんところ メディアを巡る誤解 TOP10 の内容を採り上げているのだが、割と抵抗が多そうなのはフリーミアムなので、誤解を解きたい。だいたいフリーミアムは権利者が自分でコントロールするものなので、気に入らなければやらなければいいだけの話なのだが、そのように放っては置けない要素もある。JAGATに居たときに時々あったのが、自社でちょっとソフト開発したから見てくれ、というので会ってみると開発費のモトをとりたいから外販したいというケースである。だいたいの場合は、「もうフリーウェアでありますよ」というと「ガビ~ン」となってうなだれてしまう。パソコンのユーティリティやツールの場合、フリーウェアやシェアウェアは相当洗練されていて、それ以上のものを開発するのは容易でない分野はいくらでもある。これは益なのか害なのか?
パソコンの汎用なツールではなく、ニッチなマーケットでは、そもそも受託開発のような有料モデルがちゃんと機能しているので、フリーと競合することはない。たとえオープンソースを使ったところで、SIerのビジネスになるところはいっぱいある。ところがコンテンツであれプログラムであれ、不特定多数が対象のものは、そもそも開発代価の請求先がない。それを承知で開発するのか、あるいは仮説を作って賭けてみるしかない。その賭けの部分にフリーを使ったマーケティングもある。ここではフリー同士の戦いがあるが、そこで敗退するとしても本番で負けることを考えると、最も犠牲の少ないものとなるので、社会全体から見ると効率化に貢献していることになる。
パソコンのように誰でも開発環境が持てるようになると、当然ながら参入者が増えて、競争はシビアになるから、受益者からみるとメリットがあって、コンピュータの利活用は好循環していく。過去になんらか参入障壁で守られていたところが割りを喰うだけである。参入障壁のようなボトルネックが顕在化していると、それに挑戦しようという人も増えるものだ。では挑戦する人は何を考えているのか? 大体次のA~Dの順に考えも行動も進むものと思われる。
A: Create欲求
B: Share欲求
C: 賞賛
D: マネタイズ
Aは実現できるかどうかに挑戦する段階である。作るとか表現できれば達成感がある。Bは自分のやったことを理解してもらいたい、伝えたい、使ってもらいたい、というものでクラブ活動レベルといえるかもしれない。社内システム開発もこの段階だ。Cになるとコンテストに出してできればよい評価を得たいという段階で金も心血も注いで取り組むことになる。Dでやっと儲ける算段になるのだが、個人で行うものはC段階でコストはかかってもモトはとれなくてよいとするものが多いはずだ。なんかの弾みでB段階から一挙にマネタイズが実現したニュースがあったとしても、それに比べてオレたちは元手がかかっているのだからD段階のマネタイズが保障されるべきだという考えは一方的である。
フリーはBCのプロモーションにかかる費用をカットして、Dにつなげるためにあるのだが、その中でC段階の賞賛が得られないものならば、結果的にはマネタイズはできないだろう。フリーは手品や魔法ではない。逆にいえば賞賛されることに絶対の自信があれば、外部のプロモーションはいらない時代だとも言える。冒頭の自社開発ソフトの例では、同じジャンルのフリーウェアやシェアウェアの存在を知らないようでは、到底競合に競り勝つものにはならない。フリー版を提供するならば、他社の同類を研究し尽くして、自社の製品なりコンテンツの優れた点を利用者に説明してもらおうというくらいの準備が必要だろう。