投稿日: Aug 19, 2013 12:45:27 AM
一種のNPOなのかもしれない
先般亡くなられた青空文庫の富田倫生氏のことを記事『藍より青し 青空文庫16年』に書いた後で気づいたのだが、「藍より青し」の説明を忘れていた。これはグーテンベルグの42行聖書が写本の体裁を模して大型本であったのが、その後500年で印刷出版が模倣から離れて発展したことを喩えていて、電子書籍も最初は模倣から始まるけれども、デジタルのメリットが発揮できる方向で進むということであった。
青空文庫が特定の表示フォーマットからは自由でテキスト主体でいたい理由がそこにあり、印刷を模倣するような装飾は極力排除して始めたのである。これはかなりEPUBにも共通な考えなのだが、青空文庫もEPUB同様に合成音声の読み上げなどに使ってもらいたいことを意味している。
世の中には青空文庫批判もいろいろあって、ここでは詳しくは触れないが、編集面、体裁面、無料配布という点、などから青空文庫の不十分さや問題点が指摘されている。それは富田倫生氏は百も承知で、むしろそういった批判から逃げ回って青空文庫をしているのではなく、青空文庫の運用やルールの中でそれらの問題を乗り越えようとしていたように見える。一番多い批判が編集上のことで、それは青空文庫の中でも作業指針が詳しくなっているように、随分と考察されていた問題ではあるが、永遠の課題というか、国語の問題というか、この電子図書館構想とは次元の異なる問題である。
つまり図書館の蔵書はいろんな出版社のいろんな時代の書籍があるわけで、それら全体を通して同じ編集ルールがあるわけではない。青空文庫の底本になった出版物も同様で、さらに1つの出版物の中でさえ、統一されている表記とされていない表記がある。こういった問題は大昔からのものだが、出版社の編集者がサジ加減で違和感の少ないものに編集をしていた。しかし編集者が表記の統一をしようとしても、作家が「この部分は、この表記で」とこだわることもあり、必ずしも統一することが正しいともいえないものである。
青空文庫の10000点強というのは、今日の日本の電子書籍点数からすると非常に大きいものではないが、青空文庫ほどの校閲もされていない有料書籍は山ほどある。全記事で青空文庫では訂正のお知らせが続いていることを書いたが、こういった作業が今後もひき続けられて、無用な批判がる減るとともに、「藍より青し」の新しく読書環境を広げていくところも、富田倫生氏の遺志を継ぐ人の活躍が期待される。実質的にはEPUBがその部分を担っていって、青空文庫はテキストアーカイブの拡充に向かうのだろうと思うが、そのためには対TPPのための著者や家族との新たな関係作りも必要だと思う。