投稿日: Jun 23, 2010 12:13:38 AM
出版からデジタルビジネスへ入り易くなったと思う方へ
このところ人に会うと電子書籍やiPadの話になるが、どうも話題の広がりの割には真剣味が足りないように思う。そこにビジネスの機会を感じている人は意外に居ない。要するに話題のネタ、おもちゃに過ぎないのである。これでは両方とも長続きしないのではないか。とはいえトレンドであることには間違いない。電子書籍という名前が無くても青空文庫も文書共有も進んでいくし、デバイスでテキストを読む機会も増えていく。またKindleでもslate/tablet型PCもどんどん安くなって売れていくだろう。
電子書籍にいつかブレイクする機会とかスケールアウトする目論見がないままで、今のムードに乗っかってビジネスが始められるのではないかとか、iPadとかの技術的な工夫で電子書籍に風向きが変わってくるのではないかと考えるのは妄想である。まず新技術がコンテンツに価値をつけることはない。製本でもデザインでもよくすると中身もよく思われることがないのと同じである。製本やデザインを云々するのは業者内だけであり、こういう意見に引っ張られるのはマーケティングが足りない。出版界はそうなりがちな業界である。
市場に目を向けると、紙の本をAmazonで発注しない人が、電子書籍の出るのを待っているだろうか。もし紙の本に替えて電子書籍を買ってもらうようになるのはよいことだろうか。そうなっても成り立つ出版ビジネスとはどういうものだろうか。などをキチンとロジック化して行かなければ新ビジネスとしての電子書籍はあり得ない。そんな面倒なことをして、しかも実際に立ち上げの苦労をして、今より単価の低い電子書籍をするよりは、今の自転車操業的な出版をしていた方が楽に金が回るし、自分のところにはコンテンツはあるのだから、まだ不動の楽天のように後出しジャンケンでも電子書籍に参入できると考えるのは、ある意味ではもっともである。
しかし電子書籍やiPadがbuzz wordになっているので、世間体を考えて低リスクの参入だけはしておく傾向はみられる。こういう売名的であったり、横並び的なことでお茶を濁している間に、どこかから真剣にeBookを立ち上げるところが出てくるであろう。現にAmazonもそのひとつだし、eBookのポテンシャルを活かした新しい開発にチャレンジしているところはある。デジタルはアナログの派生商品ではない。デジタルの飛躍を見越した自己改革能力が問われるのである。
周囲を見渡して「なんちゃって電子書籍」を続けていても未来は開けない。レコード・CDの業界も自身のデジタル配信になかなか手がつかなかったし、TVもYouTubeに対抗する番組clippingは自分たちでできるところは少ない。音楽の場合は知財権の料率で新参者のデジタル配信に不利な設定をする傾向があるが、時間稼ぎのためにデジタルの健全な経営をいじめるとその分だけ海賊版の出まわる領域が拡大すると考えたほうがいい。