投稿日: Jun 06, 2011 11:39:53 PM
Appleのモノ真似を嗤う方へ
AppleのWWDCが開かれて、Appleの進撃に関する景気のよい話がいろいろ出ている。これは逆にいうとAppleと似たことをしているところがそれほど成功はしていないというのに等しい。iPadは累計2500万台でダントツというが、いかに他のタブレットが売れていないかということでもある。近年躍進したものはAndroidしかない。PCやnotePCですら他が躍進しなくなったせいでMacのパソコンが相対的に近年のシェアを拡大している。AppleはITベンチャー出身とは思えないほど、どちらかというとクローズドで、オープンを標榜するITのプロたちとは対立することも多いが、それでもビジネス的に成功していることは、あまた登場する今のベンチャー群の今後にどのような成功物語が描けるのかと疑問に思ってしまうほどだ。
実は3.11の震災以来しばらくBlogを書く気が起こらなくなったのだが、その理由の第一は TechCrunch などのニュースに関心が薄れてしまったことがある。もとよりTechCrunchはベンチャーなどに投資するのための情報源であって、必ずしも技術革新や社会的ニーズを反映したものではない。つまり技術をどういう方向に引っ張っていくかとか、社会のために何をするかということとは一線を画して、今から大ブレイクしそうなものに焦点を合わせているサイトであって、これはマスメディアもネットメディアも含めて技術関連ニュースが投資先と関連しているのと同じで、ごく当然な情報提供なのだが、そこには利用者側の視点が欠落することもしばしばである。
投資家なら震災が起こった後は復興需要でどこが稼ぐかというところに視点が行くであろう。それはそれでよいが技術開発をしているところはいつも投資のパトロンがついたり離れていったりしたことを経験している。CO2削減という掛け声が近年まであったのに、原子力よりも自然エネルギーの方がよいというように風向きが変わってしまう。過去の石油ショック、何々ショックのたびに投資の鉾先は変わったのである。そういった時流に乗って成功するベンチャーもあるだろうが、同じ理由で失速するリスクも抱えている。そもそもベンチャーとはある分野の専門知識をベースにユニークなビジネスに発展させた「一筋さん」を意味していたイメージと、時流に乗ることを先に考えて後からテーマを持ってくるところとは合わない。
Appleはある意味ではコンピューティングのスタイルを変えようとする「一筋さん」であるし、冒頭のように企業文化が特異である点では本来のベンチャーの香りを残している。しかし本当はそういった先輩をひっくり返してやろうという野望をもつ若い挑戦者が出てきて欲しいくらいだが、投資家視点という近視眼的なフィルタでベンチャーを見ていると、何かよい芽を見落としてしまうのではないかと危惧する。確かにオープンソースという潮流は本物であって、そこで活躍する余地はあるものの、それはシンデレラボーイへの道ではないかもしれない。むしろそのような土台で一芸に秀でた「一筋さん」として、時流とは関係なくコツコツビジネスする方がよいのではないかと思う。