投稿日: Dec 16, 2010 9:53:23 PM
メディア人はそもそも自律的と考える方へ
GNUのリチャードストールマンが掲げた「利己的な競争社会から、建設的な共同社会へ」という理想は、夢想のように思われたり共産主義といわれたことがあった。GNU UNIX自体については紆余曲折があったが、結果的にはLinuxとオープンソースというのが商業的なシステムに取って代わって運用されるほどになって、Webサーバ関連では標準であるし、規模的にも大学のシステムあたりでは実現してしまった面もある。ソフトウェアに著作権を設定した張本人のIBMですら方針を切り替えてある部分はオープンソースに委ねるようになった。
その結果、Webの技術提供をする会社で大きなところはなくなってしまった。ハッカー達は小さいことはいいことだと思っているだろう。会社が大きくなると株主の意向に縛られて、仕事は金でしか評価されなくなってしまうので、株主から自由に物事を決められる組織が好まれる。オープンソースのコミュニティは、かつてアルビントフラーが言った「第3の波」の、農業→産業革命→コミュニティ、という進展を実現したものともいえる。トフラーはプロシューマーという生産者と消費者が同じになるコミュニティが再来するといったが、誰でも情報発信ができるデジタルメディアはそれに近づきつつある。デジタルメディアの世界はいろいろな意味で「第3の波」の先端にいるのかもしれない。
ここ10数年に起こったITベンチャーも、最初は仲間意識の強いコミュニティ的な会社であっても、上場するような段階になると次第にいっぱしの管理体制が必要となり、まかり間違うと一般企業にありがちな硬直化をしてしまう、ということを繰り返してきた。今また伸び盛りで花形のネットベンチャーでも、営業マンの数ばかり増やして売り上げを上積みしているところは、社内に独自のコンピタンスを蓄積できなくなって、単に水ぶくれした会社になりかねない。それでLLCのような法人の形をとるところも出てきている。
10年ちょっと前に出たトーマス・マローン「Eランス経済」というのも企業の固定した管理プロセスの中でルーチンワークをするのではなく、フリーランスがネットでコラボしてプロジェクト的に仕事をする「Eランス」を予言しているものである。要するに仕事のプロセスはネットを介してプロジェクト的に管理できる時代なので、大抵のことはプロジェクトというやり方でできてしまう。これは終身雇用が崩壊した今の日本にとっても個人が自律して生きるための仕事の進め方になるだろう。そもそもメディアに関する仕事にかかわる個人には全体感が必要なので自律が求められるし、メディア作りはいろんな専門家の共同作業であるし、デジタルメディアは変化が激しいので仕事は自ずと短期プロジェクトになるから、「第3の波」とか「Eランス」に向いている。
個人の自律というのが日本では一番難しいのかもしれないので、完全なフリーランスではなく、緩い組織に所属して固定給は抑えるが、仕事はプロジェクト単位の成果主義で、個人は自分の実力やチャレンジ目標を考えながら、プロジェクトを渡り歩くことで自分を成長させていく生き方を提言したい。産業革命以降に確立した、人も機械のように考える組織はほころびが目立ち始めている。しかし、記事『コンピュータがコンピュータを使う時代』では未だに就職希望者は産業革命的会社に未練をもっていることを書いたが、若い人にとっても自分を企業に消費される部材のような「人材」にするのか、ユニークな存在として「人財」にしていくのか、というのはもっと真剣に考えてもらいたい。