投稿日: May 18, 2012 3:35:42 AM
Drupaにイノベーションを感じない方へ
そろそろDrupaの報告会が行なわれるのだろうが、今まで伝わっているニュースとしてはHPインディゴの産みの親であるLandaのインクジェットくらいしか目新しいものはない。このニュースも中途半端で、ナノインクが新しいとしても、そこに何を期待したらいいのかがわからない。ナノインクはプリンテッド・エレクトロニクスの分野では革新であっても、紙の上にそれを使って今までと違う何が起こるのかを知りたいところだ。一般にはナノインクは高付加価値インクなので、果たしてB2ベタ刷りもあるような印刷用途に本当に向いているのだろうか。インクジェットインクの値段が劇的に安くなるのなら話は別だが、元々印刷インキは石油化学製品の中でも安いのが特徴だったので、それを下回るインクは考え難い。もしインク価格が高いなら、なぜ大部数用の印刷機の格好をしていなければならないのか謎だ。
デジタル印刷のエンジンの話よりも、メーカーは世間の紙離れをどう受け止めているのか、そこにどういうソリューションを提供しようとしているのかが見えなかった今回のDrupaには不吉なものを感じる。このままでは鉄の重みを増した分だけ早く沈没していくことになろう。それは過去10数年言われてきた販促のバリアブルプリントがダメになりそうだからだ。facebookの上場に巨額の金が動いたり、Googleもパーソナライズ広告にサービスをフォーカスしたり、すでに個人のまわりにはOneToOneの広告ビジネスは花盛りになっていて、これに抗するとか入り込むとかの余地は一般の印刷業者にはもうないから、今までオウム返しにいってきたバリアブルDMに期待をかけることはできない。
情報入手をオンデマンドで行なうこともスマホ・タブレットによって何時でも何処でも可能になりつつある。先日でかけた葬式では遺影がデジタルフォトフレームになっていて、人々はそれに手を合わせていた。紙の文書を作る慣習は急速に薄れつつある。紙がゼロになるかどうかではなく、増える要素がないと投資がされなくなるので、新たな開発がなくなることが、今回のDrupa全体の雰囲気のように思える。まず手作り方式のDTPはもう広がっていかないが、紙文書が必要な人がMSofficeを活用している間はまだよい。しかしスマートデバイスになってMSofficeがデフォルトでなくなると、人々が印刷紙面を生成するものは殆どなくなってしまう。それは幻想ではないだろう。
何が増える要素になり得るのかという話は別の機会にするが、DTPが迂回されてMSoffice程度しか触れない人でも、有効な紙の文書ができる仕組みに努力しなかったところは、印刷もプリントも増やすことはできない。必要ならすぐ印刷物が作れるという環境構築は可能であるし、金がかかってもそれ以上の効果が出ることをサービスとしてやっていく余地はある。そういう志に応えるようなイノベーションがDrupaからは聞こえてこなかったというだけで、紙を否定しているわけではないが、オフセットなどの大量複製に寄り添った近年のデジタル印刷が人々のネット利用と乖離した方向に進んでしまったとはいえるだろう。