投稿日: Nov 16, 2012 2:0:20 AM
eBookで何をするのと思う方へ
もう昔話のようになった日本のバブル崩壊が起こったのは、経営管理能力の不足によるものであることを記事『衰退する日本の企業の特徴』で書いた。それから後にMBAが注目されたりコンプライアンスが強化されるようになって、放漫経営を避けようとしてきたが、やはり近年の日本メーカーの衰退を見ると、もうひとつ足りないものがあったなと思う。それは未来のビジョンを描きにくいとか戦略の曖昧さなど、目標設定能力が不足していることで、具体的には日本企業に対する期待感の薄れとして現れているし、ニュースネタとかイベントの目玉になるようなアイディアが出てきにくくなっている。
日本企業も株式会社を運営している以上、株主向けに何らか期待してもらえるようなことはしなければならず、毎月のようにニュースリリースを出してはいるが、それらのうち世界が震撼するようなものは殆ど無い。自分の子供の頃を思い返して見るとSonyがトランジスタ式のTVを発表した時の驚きが忘れられない。当時私は電子工作に凝っていたが、それ以来は半導体の回路設計だけに絞ってしまった。つまり多くの人が意識を変えた製品発表でもあったと思う。Sonyはその後にオールトランジスタの高級アンプとか、当時未熟な半導体に将来を賭ける道を進んで、それは今日のCCDにまでつながっている。iPhone5のカメラが良いという声を聞くが、これはSonyのモジュールである。
しかしSonyは今は部品メーカーになってしまって、それはシャープもパナソニックも似たようなモノ作り派として何とか会社を維持することに躍起になっている。日本にはモノ作り礼賛論がはびこっていて、そこには誤解も多く、町工場の職人技を紹介するテレビ番組が後を絶たないが、町工場の多くはどうやって作るのかという how to を見せているだけで、どんなモノを作るのかというところが抜けていることが多い。Sonyは半導体でどうやってテレビを作るのかを実証する前に、持ち運びできてどこにでも置ける小さいテレビを作るという「何を作る」を最初に考えていたわけで、そこが重要である。つまりSonyはきっとアナログ時代においてのユビキタスな情報家電を考えていて、それで小さい電池式のものを次々と開発していたのだろう。
ところが時代がデジタルとネットの時代に変わった時に、折角のいままでのユビキタスな製品開発のコンセプトをAppleなどにもっていってしまわれ、それに対抗することができなかった。例えばSonyはブルーレイディスクを開発したが、 Steve Jobs は採用せず、Appleのパソコンからもディスク装置は撤去された。Appleは既存のガジェットをデジタル化するのではなく、情報家電の用途である音楽や映像そのものを、専用ガジェット無しでも楽しめるようにするのがデジタルとネットの時代のユビキタスであると考えたのであろう。音楽産業としてのSonyは2012年になって初めてネットの音楽配信に対応したが、これはiTunesから10年以上遅れている。
こういった個々の事業部などがやっていることがちぐはぐなことは今日の日本企業にはよく見られることで、コストをかけている割には前進がない。eBookで何をするのかというのも全く同じ問題で、Kindle、Kobo、EPUB云々だけをいくら学んでも出版の展望は拓けない。
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