投稿日: Sep 04, 2012 12:43:29 AM
広告アーカイブがもっと充実すべきと思う方へ
朝日オリコミの鍋島裕俊氏がfacebook上で「1枚の広告シリーズ(過去の興味深い新聞広告を紹介します)」という投稿を毎日続けていて人気がある。現在は主に明治から戦前の新聞広告が多い。以前はチラシのシリーズがあったが、新聞広告に比べると地場の商店とか顔ぶれが異なり、また生活感があって当時の社会の雰囲気を感じることができた。一方新聞広告の方は企業が自信に満ちていて、当時のトップブランドの製品を、新聞の読者である中の上以上の家庭にアピールするのに、練ったコピーや美術的なグラフィックを使っている。ある意味高尚なもので、これらは今日見ても共感を得られたり品格を感じるものであるところが人気の理由であろう。
今でも全国紙の新聞広告というのは中上流のインテリ対象という片鱗は感じるところはあるものの、むしろこれらの古い広告を見て思うのは、この数十年の読者の変化と売り手の変化である。古い時代やものへのノスタルジーとは別に、商売や広告というものの古き良き時代があったということである。例えば売り手の方では競争は少なく商品点数は少なく、まるでAppleのように自分のビジネスのコンセプトをグイグイ前に出して宣伝していけば、顧客がついてきたであろうというのと似たものが多くある。
それは元には日本になかったものだったが、文明開花とともに日本に持ち込まれ、庶民には高嶺の花であったものが容易に手に入るようになりましたよ、というようなライフスタイルの変化を広告主や新聞は共通の背景にしていた。新聞社は展覧会やコンテストのような文化的な行事を数多く行っていた。しかし戦時色が強くなると一変して商品の広告も国に奉仕するトーンになるし、新聞も日常は挙国一致体制に向けた紙面つくりをしていたのであろう。悪い言い方をするとマスメディアは人心を翻弄してきたともいえる。そうならないためにはミニメディアを制約してはならないということだろう。
広告を通して社会を見るというのは社会学の一つのアプローチ方法だと思うが、これは奥が深いと思う。私はグラフィックス関係に目が行くので、なぜこのような表現をとったのかというクリエータの手の内を考えてしまう。そこには世界的な美術のムーブメントもあれば、日本古来からの意匠や、中国由来のものなど、日本のビジュアルの土台の複雑さもある。また文字表記の時代変化というのも目の行くところである。アメリカではこういった広告がアーカイブになって閲覧できたり、新聞雑誌の広告を切り取ってオークションで売ったりしていて、元の広告の主張とは全然関係ないところで情報源となりつつある。