投稿日: Feb 13, 2012 12:50:24 AM
むしろ舞台は広がっていると思う方へ
JFPIの「SMARTRIX2020 スマート社会に貢献する印刷産業」という報告書について記事『印刷産業に明るい未来はあるのか』以降で触れているが、この報告書では従来のメディア制作という枠からはみだすビジネスは印刷産業でないので軽くしか取り上げられないことを書いた。JFPI報告書にはズバッと書いていないことはいろいろあって、大手の寡占化が進み、特に伸びる分野において著しいこと。一方中小印刷は衰退分野となっていて、発注減→競争激化→単価下落→自然淘汰と進み、企業間格差が拡大してきたことなどは記述を避けている。これは厳粛な事実であって、中小企業の個別課題としてはこの枠組みから抜け出す戦略が求められている。
また伸びる方向に関した具体的な方策もぼんやりしか書かれていない。現状の好業績企業は営業力のあるところで、専門性の指向は高くないことが書かれている。未来は営業力強化で乗り切れるものなのだろうか?報告書では今後は多核化多様化という表現だが、それではどこに矛先を向ければよいのかわからない。それらに関して報告書で少し触れているところの延長上にあるものを考えてみた。
前述の唯一伸びているのはソフト・サービス分野であって、それに相当することはソリューション・アウトソーシング業務になる。これは顧客のビジネスの一部を代行・支援するものと定義しているが、ここからどうやって利益を出すかは書いていない。それは顧客ごとに異なる要求があるので個別に自分で工夫する能力が求めらる。自分の仕事の価値を自分で値付けし、その価値を維持する信頼力やブランド力も持つように心がけねばならない。
ソリューションビジネスのスタンスは、自分がやっていることを顧客に押し付けるのではなく、顧客のビジネスを理解することから始まる。印刷物は必ずしも自然を破壊するものではないが利用されにくくてゴミが多く出るとエコではない。そこで顧客の視点としては印刷物の利便性を高めるとともに、印刷物を減らすことも同時にエコのテーマとなる。印刷のUDでも、印刷が手に入らないとか見れない人には別のメディアを提案するほうがUDの根本となる。だから印刷の我田引水だけではエコもUDも不完全なものとなる。だからトータルに考えるメディアのプロデュースが行われなければならない。報告書には書かれていないが、このようにソリューションビジネスのスタンスを得るには一旦脱印刷の姿勢になることが必要になる。
紙メディアとデジタルメディアの共存が課題と報告書はいうが、それにはデジタルとネットの環境がどうなるかを捉える必要がある。現象としてはスマホ・タブレットの伸張があるが、それらが伸びるとどうなるかはあまり書かれていない。脱PCとはユビキタスコンピューティングのことである。端末の機能はユーザインタフェースと通信に限定され、機能不足部分は無線通信とクラウドサービスが補うことを前提にして、今までのIT戦略は再構築されつつある。eBook電子書籍に限らず、企業文書やパンフレット・カタログもIT再構築の影響を受けるようになる。そこにソリューション・アウトソーシングの機会も増える。
コラボレーションについて報告書は一項目設けていて、業務のネットワーク化のことが書かれているが、その中で自社の強みを発揮するにはどうするかは書かれていない。ソリューション・アウトソーシングはサービスの個別化であるわけだが、顧客の目的を達成するために必要な仲間とか業務をコーディネートする力、他社との連携を作り上げるリーダーシップが重要である。自分がリーダーになれないなら、しっかりしたリーダを選んで仕事をとらないと貧乏クジを引くかもしれない。コラボレーションの成功は、1+1=3になるようにバリューチェーンを充実できるかどうかである。
これは人材のテーマでもあり、報告書ではそのような人材を求めるようには書いていない。つまり新たな業態の仕事を作り出すのは、従来の単なる営業ではなく、プロデューサ/ディレクタ型の人を中心とした組織運営が必要になる。プロデュースは全体の統括をし、ディレクタは役割分担を励行する。こういう組織はむしろ小企業が外部と連携して柔軟に動くほうが、人数の多い固い組織よりは有利になる。こういう方向がどの程度できそうなのかによって、コンテンツ加工というビジネスの可能性は大きくも小さくもなる。
報告書はビジネスの海外展開にもあまり言及していないが、大手はここでもビジネスを大きく発展させている。しかし中小企業は大手のような独自技術を持った製造業として海外進出できるところは非常に少ない。むしろコンテンツ加工の海外化が進んでいるのだが、それも報告書にはあまり書かれていない。さらに今後はコンテンツの輸出入や制作における海外クリエータとのコラボレーションなどが盛んになる。それはデジタルとネットおよびコンテンツ配信などの仕組みは世界同時進行で同じ技術で行われるからだ。
ある意味ではコンテンツビジネスはいつも世界を考えざるを得なくなってくるので、それにも対応する組織運営、技術力、人材育成を心がけていれば、ある時にビジネスの広がるチャンスが訪れる可能性は高い。少なくとも国内市場の特殊性にすがっているよりも、未来は明るく見えるだろう。
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