投稿日: Feb 14, 2012 12:58:27 AM
出版のしがらみが減っていくと思う方へ
日本の大手出版社もAmazonKindleの配本の仕組みの上でビジネスを進める準備をしていることが伝えられているが、それは単に東販や日販のネット版のように見ているのか、それともAmazonならではの新たな出版ビジネスを考えているのか、まだ判断はつかない。単なる流通としてはKindleデバイスの普及とともに国内の電子書籍ビジネスを本格化させるという面と、海外で日本の電子書籍が手に入るようにできることの2面がある。すでに日本のビジネスマンで海外赴任の人は桁違いに増えているので、日本人相手でもネット流通は有効である。また以前にも書いたことがあるが、日本には入院病棟が100万ベッドあるといわれているので、そこにも電子書籍はダイレクトに提供できるようになる。つまり「どこでも読書」が実現するのである。
しかしヒット作の大量流通は紙の配本ルートが今までどうり有効に機能するだろう。それはなかなか日本の出版界は電子書籍を割安で提供する考えには切り替えられないことがあるからだ。一方で過去の名作などは再版してどれだけ売れるかわからないから電子書籍で出すことは増えるはずだ。電子書籍は絶版がないのだから、この際にロングテールビジネスにもっていくのが本来の姿であるが、これは出版社が本気で乗り出すかどうかはわからない。もしある出版社がマーケット調査をして、自社の本は古本としても長らく流通していると判断したならば、それは電子書籍でロングテールな売り方をするのがいいだろう。大手出版社の性格として、電子書籍になっても年に何百冊という単位の商売をしない可能性もあり、そうすると出版界は電子書籍を機に、新刊中心のところと、古本屋を飲み込むようなロングテール型に分かれていくかもしれない。
自炊をすることの云々がいわれたが、実際のところ大学の非常勤講師がすでに入手難となっている書籍をゼミなどで使わざるを得なくなったとすると、自炊しか手段がない。だから自炊代行の代わりに復刊ドットコムのような権利処理をして低額で学校などに使ってもらって、そのデータをロングテール市場で一般に売るという、電子再版の流れも必要に思う。おそらくAmazon Kindleは以上のようないろいろな出版モデルの複合体になるであろう。
電子書籍によるロングテール指向というのは再販制度を無効にする。この制度は書籍流通や書店の売れ残りを古本などの市場に流れないようにするものだが、電子書籍には在庫とか売れ残りという概念そのものがないし、中古販売を含めて2次流通もない。今までの出版は新本の2次流通を禁じることで返本を受け入れていて、その分のコストは新刊販売で負担していた。だから新刊の値段は電子書籍では下げられるはずなのである。さらに一定期間を過ぎて売れ残った本は書店の棚から回収することは、実質的に書籍を葬っていることであった。レコードの場合は回収して溶かしてリサイクルをしていたので、少ししか売れなかった音楽はこの世から痕跡を消されたようになってしまった。本もレコードもアメリカのような再販制度のないところでは、あまり売れなかったものも後世の人が再評価をすることがよくあったが、日本ではその機会を封じてしまった。
だから電子書籍でロングテール指向になれば、作者・クリエータは悠久の時間に自分の作品を置くことになり、再販というビジネスのメカニズムの縛りから解放されるという意味もある。