投稿日: Mar 01, 2011 11:26:5 PM
eBookの得失を考える方へ
コンテンツが良ければ出版物が売れるわけでもない典型が学術出版だ。紙の本や雑誌しか表現方法がなかった時代は、やりくりして書籍を作るメカニズムを作った。それは学術出版社の場合もあれば、専門書出版社に出してもらう場合もあれば、いろいろな学会が共同で運営する学会誌の事務局とか、印刷会社もそういったことの手伝いをすることもあった。これらによって何らかの経済的に成立させていた。大抵は採算ギリギリとか著者が補填しながらという経営であったろうが、紙の出版物の部数が減ってしまうと上記のメカニズムが機能できなくなって、出版活動の限界を割ってしまおうとしている。
下の図の左の黒三角は紙の出版を、学術・専門・大衆向と層別して考えるためのもので、紙の学術出版はギリギリであるのに反してeBook化は著者のリテラシーが高いために容易であり、また限られた書き手が限られた読者に伝達するために自主流通も容易であるように、出版社を介在しなくても自主出版がしやすい状況にある。eBookによる自主出版の問題点は、紙の出版が必要になった時に支援してくれるところがあるのかどうかだろう。ただし図右の赤枠のプラスアルファ部分もあって、eBookなら英語で世界に発信することは容易になる。
図の中段の何百~何千部の専門書の世界は商業出版なので、紙の出版で落ち込む部分をeBookで補って行こうとする。またeBookは初期コストがかからないので今までよりも多様な出版が可能で、そこでマーケティングした結果から、売れそうなものを紙の出版にもっていくという両立のビジネスを目指す。eBookで印刷コストがかからない分、出版側の利益性が上がったという出版社もアメリカにはある。また著者は書くこととは別に職業を持っているので、本を出すことの効用は印税だけではなく、ビジネスの宣伝・啓蒙であったり、個人の名刺代わりであるので、著述意欲が無くなることはないだろう。専門書は書店経由では入手難であったのが、eBookで解消されて販売増につながることが期待される。
下層の大衆向け出版は職業作家や有名人によるもので、小説ならアニメ化ドラマ化映画化があるように、媒体は何でも取り組むことが従来から行われている。ビジネス書もeBook化するものがある。eBookになったからといって内容に変化があるとは思いにくいが、書店を経由しないでネット上で販売することによって、販売機会は増えることが期待できる。
こうしてみると、最上位の学術出版だけはほっておくことができないことがわかる。元来学会はボランティアのソサエティなので、そこで可能な範囲のeBook自主出版に切り替えて、紙の出版のプロの力を借りる必要があるならば、専門書出版との連携を強めていくしかないだろうし、紙の印刷もBookOnDemand化して図書館などに収蔵できる経済的な方法を模索していくことになろう。