投稿日: Jan 20, 2015 12:31:27 AM
日本の新刊書籍発行点数は人口当たりで考えると出し過ぎであることを何度も書いてきたが、今また電子書籍100万点時代になると別の混乱の次元に突入しつつあるように思える。年間に何万点か発行されるようになった時点で、零細書店には陳列する場所もなく、取次から送られてくる新刊の段ボールが開梱もされずに送り返されるようなことが起こった。これは出版社側からすると取次に無駄な経費が使われていることに見えるし、書店側からみても取次のマッチング機能が働いていないことに見える。本来なら出版社は相応しい書店に置いてもらいたいわけだから、取次が本来の機能を果たしていないことになる。
これは全部が取次の責任ともいえない。何しろ発行点数をドンドン増やしているのは出版社のほうなのだから。よく言われるようにこの3者の緊密な関係は需要が拡大していた高度経済成長の時はうまく機能したのだが、その時代が過ぎ去っても顧客視点の出版ビジネスには組み換えられなかった。新しいビジネスは出版業界の外側から始まるようになったわけだ。なぜなら日本の伝統的な出版社は流通面を取次に任せたことでマーケティングができなかったからだ。そのことは電子書籍に於いても何も変わっていないので、電子書籍で出版社が再起するとはとても考えられない。
では出版ビジネスに未来はないのかというと、決してそんなことはなく、むしろネットのコミュニケーションが発達すると、取次というセンター機能によらなくても本が売れるチャンスというのは増えると考えられる。それには従来のマスマーケティング的な考え方から脱しなければならない。もとより大出版社のベストセラービジネスは従来のマスマーケティングでも問題ないと思うが、中小出版社が大手の真似をして新刊を乱発するのは自分の首を絞めるだけなので、生き残るにはマーケティングの方向転換が必要である。
本来、音楽も本も、良いモノが長く売れるという側面を持っているので、やはり原点に帰って長く売れる良い本を刊行するのがいいのだが、それが売れないのが今である。特に日本でなぜ良いモノがうれないのかというと、内容が評価される機会があまりにも少ないからである。それは典型的には書評であるが、多くは発刊時点でしか取り上げられることはない。blogが始まってAmazonなどがアフィリエイトで本やCDを売ることを推奨するようになったものの、反面では雑誌というのが激減して書評を読む機会も減ってしまっている。
また書評以外にも、ネットでは参照元・参考文献・リンクなどで本の紹介がされることが多くなった。しかしネット上の書評サイトは日本ではまだ不活発で、どこかのリンクで本が引用されてもその先に購買・購読につながるところが弱い。出版業界や音楽業界が新しいマーケティング基盤を築こうという気があるのなら、既存のコンテンツに対してもWikipediaを超えるような不断の再評価が行われるような環境に向けて努力する必要があると思う。
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