投稿日: Apr 16, 2013 12:21:50 AM
目指すのは匠ではないと思う方へ
学生時代に高島屋の家具工場でアルバイトをしていたことを思い出した。それは記事『おみやげの質で見る国民性』『日本の強み発見伝』で長野のギター製造のことを書いたが、同じころといえる。長野の木工所も楽器だけでなく(というか本業は)家具や内装材であったと思う。高島屋の場合は自社デパートで売る家具とは別に、特注の家具生産をいっぱい行っていて、高級ヨットの内部とか、豪華客船の船室内の作りつけ家具などである。一見同じようにみえても、それぞれに必要な要件があって、木や作り方に工夫があったように思う。そんな中で一般家庭向けの家具が一番安直な製品だったかもしれない。
私の働いていたところは体育館よりも大きいような倉庫で、注文があったものを取り出しにいって、掃除して梱包するのだが、何年も経っているものは木が反ったり接着の剥がれが起こるものもあった。そういったものは当然出荷せずに修理して、社内格安販売などにまわっていた。だから永く使う木工品は素材となる木を枯らすだけではなく、製品になってからも枯らして、十分安定してから店舗に出ているものが良いわけだろうし、狂いの無い程度のよい中古は同等に商品価値が高いのだと思う。
しかし長持ちするものを作るには素材選びが重要になると、そもそも良い材料は限られるので大量生産には向かない。豪華客船の船室などは素材を選んで作るのだろうが、家庭用家具は切れ端の合成で作られる。だから工場内を見ると、木を接着している部分がかなりを占めていた。つきつめると大きな木工所は木を再構成しているところともいえる。合成してまとまった大きさになれば、あとはコンピュータ制御の加工機で如何様な形にも仕上げることができる。
日本のギターブームはベンチャーズやグループサウンドで勃興し、長野には最盛期に数十のギター工場があったというが、グループサウンドの潮が引くと社数は10分の1になってしまったという。その生き残りの雄であり、フェンダー・ギブソンのクリソツといわれたのが品質的にはフェンダージャパン・オービルbyギブソンとして認められるまでになったフジゲン(富士弦楽器製造)のサイトをみたら、なるほどと納得させられるものがあった。それは合板の製造設備を自分で作っていることである。良い木材を探してきて手作りの製品を作る工房はいっぱいあるけれども、同じ方法では企業としてはやっていけない。企業化のポイントは良い木材に匹敵するものを創りだすことにあったのだろう。
つまり同じ木材の買い付けをしても、出荷される製品はグレードを高くすることができることが競争力になる。家具屋の倉庫に狂いの出た家具が生じるように、楽器屋の倉庫には難ありのギターが生じてしまう。時々そういった難アリがまとまって放出されることがあり、それを買って修理して小遣い稼ぎをしているひともいるようだ。そういう裏側の事情を垣間見ると、やはり生き残ったメーカーはその他のメーカーやアジアのものよりも難アリになるのは少ないし、あったとしても軽症に済んでいるように思えた。
また合成や合板は安く仕上げるという意味だけではなく、一枚板から作る場合の割れや狂いを補正する技術にもつながって、特に楽器の場合は品質を上げるポイントにもなる。それはフェンダーやギブソンもやってきたことだが、日本の合板技術はそれを超えるところまで進んだともいえる。だからもはや安物の域ではなくなったことがアジア勢との競争力を失ったかのように思わせているが、日本の進むべきはやはり一段高い目標に向けてなのであろう。