投稿日: Apr 23, 2013 1:22:9 AM
自立した情報発信が必要と思う方へ
前職で研究調査をしていたときには、1980年代から30年ほど国のいろいろなマルチメディア施策を見てきて、その殆どは消滅してしまったのだが、過去のアナログ情報をデジタル化するのに補助金を出して部分的に作ったデジタルアーカイブは、今でも運営者のホームページのどこかに残っていて、何らかの形で閲覧可能になっているものが多い。一方でハードウェア開発を伴うような助成は殆どが跡形を留めていないし、独自アプリを開発したものも同じである。
つまりハード・ソフト開発への補助金はIT業者に当座の仕事を与えただけで、社会的には何の蓄積にもなっていないものであり、国がすべきことではなかったと思う。一方アーカイブは確かに次の時代に引き継がれる情報資産にはなるのだけれども、補助金あったときだけデジタル化がなされたというのは残念だ。過去の情報資産を持っているところにとって、それをどういう方法でデジタルにすればよいのかを試行錯誤する余裕がなかった時代には、デジタル化の普及啓蒙として効率的なモデルを提示するために補助金が使われるのは正しいと思うが、それはあくまでプロセスを理解してもらうためであって、デジタルの成果物を作り出すのは当事者でなければならないはずだ。
ところが実際には補助金を使ってIT業者に丸投げされて、そこから成果物の作成もどこかの業者に発注されるので、情報資産を持っている組織の中には殆どデジタルアーカイブ構築のノウハウが溜まらない。これは業者都合だけではなく補助金事業が年単位で管理されていて、短期間に成果物まで持っていかなければならないという制約があるからだろう。形式的なプロジェクトによって作りっぱなしで更新・メンテナンスも出来ないような補助金事業を計画するのはいかにもお役所仕事であり、本当なら当事者のITリテラシーやIT環境構築から始めるべきものである。
かつてのデジタルメディアに関するプロジェクトは大体がデータフォーマットと、媒体(記録や通信)と、端末開発と、リーダアプリ開発、などを同時に行っていたので、確かにIT専業でなければ手がつけられないものであったかもしれないが、今ではスマホ・タブレットが安価になったように、媒体や端末やリーダアプリはすでに利用可能なものがいっぱいあるし、データフォーマットもマルチメディアに対応するものが揃っている。これらのデジタルメディア環境の成熟を象徴するのがeBookでもあった。
つまりeBookのテクノロジや利用環境の普及によって、デジタルアーカイブは檻から解き放たれたともいえる。だから情報資産を持っているところがeBookのオーサリング環境を導入・利用することを推進するならば、もう補助金による一時的なプロジェクトは不要になるし、継続的にデジタルアーカイブの蓄積を続けていけるだろう。