投稿日: Jul 03, 2011 10:48:16 PM
無名のベストセラーを目指す方へ
デジタル出版技術/サービスに関する国際的な情報サイトである http://www.ebook2forum.com/ に、雑誌の解体と再生 という記事を書いて、そこでは[広告モデル][マーケティングモデル][サービスモデル][カリスマモデル][コミュニティモデル]の5つのタイプについて考察した。これは雑誌がこの5タイプに分類できるという意味ではなく、当面のデジタルでの配信で考えるべきこと、あるいは雑誌がデジタル化する際の特徴を説明するために取り上げたものである。だから実際にはマーケティングモデルでもコミュニティモデルでも広告がつくことがある。しかし雑誌を発刊する動機というのは5つのタイプのどこかにあるはずで、そこを基点にデジタル化の有り様を考えなければならないと思う。
誰でも思い出の雑誌とか、想い入れのある雑誌というのはあるだろう。20世紀においては雑誌が個人の価値観形成やライフスタイルに大きな影響を与えた。日本の都会の場合は住宅事情で雑誌をすべて置いておくことはできないが、地方を探せば相当残っているのではないかと思う。紙の雑誌を振り返ってみると、雑誌を世に出す動機というのが読み取れ、それは今よりも純粋で鮮明に思える。それは過去は出せば売れるという時代であったので、無理やり広告モデルをでっち上げなくてもよかったこともある。しかし明快なコンセプトがあってもすぐにネタが尽きて魅力がなくなる場合もあり、純粋であれば雑誌が続くわけでもない。雑誌を出し続けるコンセプトというのがもうひとつあるわけで、それはコミュニティモデルでは最も重要な要件だろう。
このページの写真はJETというアメリカの黒人向けのポピュラーな一般雑誌で、1951年の創刊以来今まで続いている。最初はA6くらいのハガキ大で本文64ページのものが20セントで売られ、近年はB6くらいでオールカラー$1.50になっている。内容はたわいのないもので、スポーツ選手や芸能人・一部実業家・政治家などの黒人セレブに関するコラム程度の記事が中心で、かつて公民権運動が盛んなころには、社会情勢の記事も少しあった。(表題下の左側表紙女性はMLキング牧師夫人) これくらいなら新聞のどこかにありそうで無料でもおかしくない程度のものだ。実際には当時は年間52冊を5ドルで購読できるので限りなく無料に近い。広告もそう多くはなく、どれくらい儲かったのかは知らないが、黒人生活者の息抜きや癒しとしての役割を60年間果たしてきたことはわかる。近年の発行部数は93万部だった。
DEC. 18, 1958.
パソコン雑誌のような役に立つ雑誌は移ろいやすい。しかしこのJETのように読者に寄り添って歩むものは、何の特徴も無いように思えても、ずっと続いている。しかも日本の洋書コーナーにも入ってこないで、アメリカ黒人という特定のコミュニティだけに棲み続けてきた。しかし何が特徴なのか、コミュニティ外の人間にはわからない。こういった雑誌もWebサイトをもっているが、オンラインの雑誌をしているわけではない。むしろかつては黒人にしか到達しなかった雑誌なのに、別のコミュニティの人にもアクセス可能にすることで、おそらく自然減を補うようなことなっているのだろうと思う。
このJETのもつ性格に合わせて、たとえばCocaColaの広告であっても黒人向けの内容のものが掲載される。昔に比べて広告の比重は増えて3分の1ほどを占めるようになっているが、すべて黒人向けにアレンジされている。これは広告主が黒人にアピールしようとするとたどり着く媒体である。JETは黒人コミュニティの価値観の代弁者になっていると思える。コミュニティモデルの雑誌を出し続ける上でのポイントはそこにあるように思うし、そうなっていれば広告も後からついてくるということだろう。
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