投稿日: Dec 08, 2014 12:49:37 AM
昔の古いコマーシャルやパンフレットを見ると、昔のライフスタイルを思い出すことがあるが、日常生活における「見えるもの」の変化は大きい。大きいところでは街の景観や歩道が様変わりしているし、店のショウウィンドウや陳列も凝ったものが浸透している。商品そのものもきれいになっている。
1960年代から度に4色が刷れるカラー印刷機が増えてきてカタログ・パンフレットがカラー化し、当時はそれらを「商業美術印刷」と称していたこともあった。これは美術雑誌程度ならどこでも印刷できるようになったということで、専門分野としての「美術印刷」が(非常に特殊なものを除いて)なくなったことでもある。今日ではパソコンとプリンタで偽札が作れるほど、その程度の再現なら誰でも可能になった。
つまり特殊技能としてのプロの印刷の領域は非常に狭まってきたことになる。しかしそれは一度に起こったことではなく、個々の分野が少しづつオープン化していったのであって、まだコモディティ化していないグラフィックスの分野というのもいっぱいある。しかしそういう特殊領域にチャレンジしようという印刷会社は、以前よりも少なくなっている。
そこで現時点でチャレンジをするのに必要なグラフィックスの基礎知識を整理するために、前職では『眼・色・光 より優れた色再現を求めて』という本を出したが、それを契機に勉強する機会は作れないままになってしまった。今まで特定の職人にしかできなかった画像の加工や色の調整などをちゃんとした知識として伝達・教育をするためには、一度は科学的なアプローチにする必要があるのだが、この科学的アプローチが理解できる人材が必要というところで堂々巡りになってしまいそうだ。
そういう知識・教育という問題を離れると、日本はグラフィックスの感覚が高い人が多く、日用雑貨まできれいに飾られていて、そういった世界は昔とは大きく変わってきた。産業としては縮小する印刷産業ではあるが、パッケージ印刷は堅調である。これはモノを運ぶとか守るという機能性があるからだと一般にはいわれるが、それだけではなくきれいにもなっていて、昔はパッケージ印刷といえばベタものと言われていたのが、写真をカタログ並みの表現するようになり、さらにもっとクリエイティブな領域に入っているものもあるように、表現の最先端に向かって努力しているように思う。
『眼・色・光 より優れた色再現を求めて』という本は、人にとっての「見え方」を科学するもので、光沢というような質感に関するものも採りあげているが、パッケージ印刷で重要な点が単なるRGBとかCMYKでは説明できないというところに、パッケージ印刷のノウハウが崩れにくい理由があり、産業としても強みになっている言える。
他の印刷分野においても、デジカメで撮影してそのまま出力をすればよいグラフィックスではビジネスになる要素はあまりない。あるのは特殊な出力くらいしかない。画像加工をRGBとかCMYKの世界に限定してしまっては世界は狭くなってしまうことは、この間の印刷産業の趨勢をみれば明らかである。日本にはグラフィックスの感覚が高い人が多いのだから、グラフィックスに関する技術開発は今後も進んでいくだろうが、その恩恵にあずかるのは、従来RGBやCMYKの仕事をしていた人とは限らない状況はでてきつつある。
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