投稿日: May 09, 2014 12:44:46 AM
アイディアは練るべきもの
かつて私が大学に入ったころにアメリカの Radio Electronics, Popular Electronics というアマチュア向けの電子工作の雑誌を定期購読した。これらは紀伊国屋などで輸入雑誌の棚にあって立ち読みしていたのだが、直接に年間とか3年間購読するとびっくりするほど安い雑誌であった。そのノリで雑誌広告にある電子部品をアメリカから直接買うようになっていった。
当時日本の雑誌としてはトランジスタ技術をずっと買っていて、どちらかというとトランジスタ技術の方が専門度が高いというか高度な設計・制作をしたものが載っていた。アメリカの冒頭の雑誌は毛色が異なって、キットの紹介記事と、ワンナイタープロジェクトという簡単な工作があるのが魅力だった。
キットの販売はアメリカでは通販とともにいろんな分野にあるもので、ログハウスまで通販で買って自分で組み立てることができる。日本のように材料の調達が容易でないから発達したのかもしれない。またキットは確実に完成させられるものであり、しかも市販品と同等のデザインや性能が保障されて、値段が安いとなると、節約の意味から買う人もいる。オーディオなどでは結構のちのちまであったように記憶する。ラジオシャックというチェーン店もあった。
日本でも真空管の時代はラジオのキットはあったし、戦後のテレビの登場期にも何十というテレビキットの販売会社があった。秋葉原の何々無線という店で、かつてはそういうビジネスもしていたところがいくつもあった。
電子機器に関してはプリント基板の時代になってキット販売は下火になっていったように思う。しかしこういった伝統の上にマイコンは登場した。マイコンは冒頭のアメリカの雑誌に最初に紹介されて、以降これらの雑誌は次から次へと登場するマイコンキットや完成品およびモジュールを紹介し続けた。
しかしマイコンがパソコンになり高度化するにつれて、半田付けするようなキットは消えていった。AppleIIとか日本ではNECの8bitパソコンの時代には海賊版のキットが販売されていて、買って組み立てたことがある。その後は自作パソコンといえば半田付け不要のパーツや機能モジュールを組み合わせるだけのものとなった。
アメリカの雑誌のもうひとつの特徴であるワンナイタープロジェクトは、パソコン時代になっても入出力のインタフェースを作る部分で続いているし、日本のトランジスタ技術でも似た記事がいまだにある。当時のアメリカのワンナイターの面白さは、一晩で組み立てられるという簡便さだけでなく、思いついたアイディアをちゃっちゃと実現してしまうという意味合いもあって、結構トリッキーな回路の発表の場でもあった。
例えば同じ機能を実現するのに、どれだけ部品を削減できるかという競争もあった。これは特に今の日本の若い人は見習うべきことである。ネットにはいろんな自作記事があるが、だいたいは冗長すぎるというか、回路図が練られていないで、部品数が多すぎるのである。これは回路を付け足していくと起こりがちなことで、試作した後で見直してトリムとかショートカットをしていかなければならないのがなされていない。
ケチケチな設計をしないというのは日本の電子工業が安い部品など作っていられなくなったということも影響しているかもしれない。しかし一切ムダのない回路設計は感動もので、高性能で安いということを両立させてしまうことがある。逆にコストかけ放題の設計は商業的にも成功しないだろうし、アイディアとしても値打もないものとなるだろう。アイディアは練って洗練させ、低コストで優れたものにしないと製品やサービスには結びつかない。