投稿日: Aug 03, 2012 1:1:25 AM
これから勉強すべきところが多くあると思う方へ
日本の電子教科書化について、記事『重い腰を上げつつあるモバイル教材』で書いたが、最初にiPadなどを学生に使わせたのは、もともとITリテラシーを教えるような情報何々学部の新入生であった場合が多い。この場合は学生がデジタルガジェットに慣れていると思われるので、利用側の受け入れはすんなりいったようだ。デバイスの費用を自己負担ににしても、そもそもそういった利用を職業にしたい人だから問題はない。学生が提出するレポートや試験もデジタルとネットで行った例がある。しかし学生側もノートに相当するところをどうするかというのが大きい課題のようだ。
とりあえず教材にはそれほど問題はない。大学でiPadなどを使ってデジタル教材で授業や実験をしている例が昨年から報告されているが、結局教材に関してはPDFが主流であって、紙からスキャンしているか、紙用DTPデータから作っている。学生がパソコンや端末を持ち込む場合に、EPUBのリフローをするものでは、「はい! 22ページの5行目から…」というように内容を追えないので、授業中は使いにくいという。EPUBでも固定レイアウトにすればよいわけだが、それは今後の問題である。既存教材はPDFでもよいのだが、先生が教材をカスタマイズしたい時にPDFは不便であるようだ。それは何らかの挿入をするとなると、元のデジタルソースが必要になるわけで、Wordでもマルチメディア的にオーサリングできるのに対して、それをPDF化する方が不便になるからだ。PDF教材では基本は外部リンクになる。
今後は教科書出版社自体がデジタルのマルチメディア教材を作るのであろうが、先生のカスタマイズが必要な現場教材の2本立てで授業がされるのであろう。前者は、脱紙による利便性向上やコストメリットがあるが、後者は先生がハンドリングしやすいということが第一条件になるはずだ。それは市販の教科書をバラして使うのではなく、素材レベルで提供されるようになるだろう。こういった教材のカスタム化については大手塾や通信教育などの受験産業での利用が世界一進んでいるともいえる。だから大学の一般教養くらいまでなら教科書会社の世話にならずに、デジタル化が進む基盤はできている。どちらかというと義務教育に重点があるようだが、そのような会社の集まりとしてデジタル教科書教材協議会 (英語名:Association of Digital Textbook & Teaching)がある。
これとは別に各大学単位で関係者の研究会や、前記事で触れた横断組織の日本デジタル教科書学会などが、重層的に動き出したのが2011-2012年であるともいえるだろう。だからメディアの制作者にとっても、今がこういった教育の現場と一緒になって、教育のIT化で残る障害を解決していくよい機会である。そこではiPadがどうとか、EPUBがどうとか目下の得意な話をブチかますのではなく、冒頭の学生のノートをどうするか、学生とのコミュニケーションを手間をかけないでどうするかなど、最終的に学生と教科書をつなぐところに焦点をあわせて、一緒に勉強させてもらうことが重要だろう。
電子出版再構築研究会 名称:オープン・パブリッシング・フォーラム Ebook2.0 Forumと共同開催