投稿日: Apr 18, 2014 12:33:2 AM
産業用インクジェットは産業構造を変えるか?
若いころに洗濯機のボディの印刷に携わったことがある。白物家電に花柄などを入れるのが流行った時である。これは白い鉄板に印刷して、その後で炉で高温で焼きつけるのだが、印刷よりもそちらの工程の方が大変で、割と短期間のうちに終わってしまった。印刷工場に鉄板を運び込むのも運び出すのも大変で、結局こんな印刷は誰もやりたがらなくなったのが実態だったと思う。
その後自動販売機が巷にあふれだした時に、自動販売機のボディにどうやって印刷するかという相談があった。結局は外部の印刷事業者を使わずに、自動販売機の組み立てラインの中に印刷工程を作ることになったと記憶する。これは後に液晶パネルでも同じで、大手印刷会社が請け負っているといっても、液晶パネルの組み立てラインの一部分を受け持つような形で、場所は印刷会社ではなく顧客の生産ラインの途中で仕事をしている。つまりどちらも被印刷物および印刷物の移動はしないのである。印刷物の配送が無駄というか大問題な場合があったということだ。
今日、企業内のプリントセンターを外部の業者が運営するとか、物流業者が物流拠点でDMなどのオンデマンド印刷をするとか、あるいは出版社が倉庫でブックオンデマンドをする、また折込業者が印刷も含めたワンストップサービスをするなど、印刷という工程が上位の業務システムの中に組み込まれていく様相がある。
これを促進しているのが産業用インクジェットのような組み込みに適した印刷方法の発達なのだろう。この傾向をまとめると以下の図のようになる。
従来の印刷業務は印刷物を完成させてトラックで運んで納品していたわけだが、おそらく流通業者の目から見ると、移送にかかるコストや倉庫への出し入れのコストというのはモッタイナイやりかたになるのだろう。つまり配送業務の究極の合理化とは、製紙工場から出た紙を運び込んで小分けして配送することだろうから、それに向かうように業務の流れを組み換えることから始めなければならない。
今は印刷の段取りをどこで行っても、ネット経由でどこでもプリントが可能な時代なので、印刷工程は「ポータブル」になったともいえる。だから印刷工程が配送の側に「移送」されることで、紙というモノの移送を減らすことができるのである。別の言い方をすると、印刷物を必要とする業務プロセスの中に印刷工程を組み込むともいえる。
既に特殊印刷の世界ではそのようなことは当たり前になっているのだが、それが一般的な印刷物にまで及ぼうとしだしたのなら、上記の動向はこの業界にとっては革命的なものである。産業用インクジェットが本当に産業に役立つものになる時は、印刷という産業の再定義がなされるようになるのだろう。