投稿日: Sep 02, 2013 2:20:10 AM
新メディアは長期戦
HTML5に対応した利用環境やツールがぼつぼつ出てきた反面、Webもモバイルも新しいメディアの兆候というのは、むしろ減っているのではないかと思う。Flipboardやpaper.liが登場したのはいつだったっけ?iBookAutherで何が出来るかという話題も1年以上前だった。Lineのような利用度の高いものは、技術的にもビジネス的にも新味は無い。ネットの利用が広まれば広まるほど、ネットは新規性よりも人々との親和性の方が中心になるので、別に新味はなくてもいいわけだが、現状の技術的あるいはビジネス的環境に没入してしまうと、新たなメディアビジネスというのは生まれてこないだろう。
つまり新たにメディアビジネスを興すというのは簡単なことではない。特にビジネスという面では金の回り方が出てくるまでには長いガマンの時代が必要だからだ。青空文庫のことを『藍より青し 青空文庫16年』『青空文庫の未来』で採り上げたが、今寄付モデルをやろうとしている。それが順調にいくという確証はないのだが、16年たってやっと金が動こうとしている。こんな調子だから、未来のメディアに挑戦する人は極めて少ない。経済人からみれば無謀なことに見えるだろうから、いくらメディアビジネスの青写真を描いても投資は得難い。
結局現在我々が目にする「新しいメディア」の殆どは、テレビCMや世界的に雑誌広告を出しているような超有名ブランドの広告を獲得することを目標としている。つまり広告ビジネスがメディアビジネスのフリをしているに過ぎない。だからこの、有名ブランド広告がなければ成り立たないメディア、という枠の中で試行しているメディアビジネスと、有名ブランド広告なしでも成り立つメディアを志向しているところとは、一見似て居るようなチャレンジャーに思えても、おそらく両者が合わさったものにはならないだろう。
では後者は全く無謀な試みで実現はあり得ないものかというと、そうでもなく、印刷メディアの時代でも有名ブランド広告なしで成り立つ媒体はいくらでもあった。広告モデルの商業雑誌が凋落する中で印刷物の広告モデルのトップは発行部数が1000万部を超えるJAFmateのような会員誌になってしまった。こういう印刷物もコストカットする企業は増えてはいるが、逆にみると紙媒体に代わりうるこの分野のデジタルメディアがまだ発明されていないのである。当然ながらこういった紙媒体にある情報そのものはオンラインでも配信されているはずだが、受け取る側の習慣がデジタルになっていない。
受け取る側の習慣をデジタルに変えてしまったものにはオンラインジャーナルがあり、これは大学図書館などに年間の使用料を負担してもらうために、従来の図書購入費に対して費用対効果が高いサービスであることを認めてもらえたから成立した。「新しいメディア」が広告というモデルから抜け出すためには、そのメディアの本来の目的に立脚することが必要で、トレンドから飛びつくのようなものではないだろう。